レジデントノート:明日起こりうる急変対応 リーダーはあなた!〜蘇生時の動き方、各病態への介入、薬剤の使い方、スタッフへの指示など必ず身につけておきたい立ち回り、教えます
レジデントノート 2022年6月号 Vol.24 No.4

明日起こりうる急変対応 リーダーはあなた!

蘇生時の動き方、各病態への介入、薬剤の使い方、スタッフへの指示など必ず身につけておきたい立ち回り、教えます

  • 溝辺倫子/編
  • 2022年05月10日発行
  • B5判
  • 154ページ
  • ISBN 978-4-7581-1680-0
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって

溝辺倫子
(東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科)

どうしてネガティブになっているのか?

「急変対応」と聞いて,皆さんはどのような感情をもたれますか? 初期研修1年目の先生なら,怖い,不安,ひとりで遭遇したくない,といったネガティブなイメージがあるかもしれません.初期研修2年目になった先生にとっては,これまでの研修期間で出会った急変の一場面が思い起こされ,ああすればよかった,うまくできなかった,大変だった,辛かったといった,これまたネガティブなイメージで覆い尽くされるかもしれません.

なぜ,ネガティブになるのでしょう? その理由は次のどれにあたるでしょうか?

  • 知識が足りなかった
  • 知識はあったが,どのように臨床につなげていいかわからなかった
  • 知識をどのように臨床に活かすか知っていたが,実際にやったことがなかった
  • 臨床行動に移してみたが,うまくできなかった

なぜネガティブになっているのかの理由を明らかにして,解決方法を探すために,この特集を読んでみてください.事前に自身の現状を把握することで,効果的な学習ができることと思います.

プランをつくろう

急変対応に関して,あらかじめ,プランをつくっておくことが重要です.

どのような順番で病歴聴取や身体診察を進めるのかをまず組み立て,その結果でAという所見があれば,処置はプランAにしよう,Bという所見があれば,プランBにしよう,とプランを数個,頭に描きながら患者さんのもとへ急ぎましょう.この特集を読んだ後に,自分なりのプランをそれぞれの症候に対して数個ずつつくってみてください.行う予定の診療・処置に対して必ず根拠が説明できるように,プランを立てましょう.次の急変に出会う前に,プランをつくるなら,ゆっくり考えられる「今」です.

突然,急ぐ診察・処置を求められると,どんなに経験を積んだ医師でも焦ってしまい,いつもの実力が発揮できなくなります.このようなとき,事前につくっておいたプランに乗せることで,焦りを補い,正しい診療をすみやかに行うことができると考えます.

「一皮むけた経験」には振り返りが大切

医師は誰しもがリーダーとしての役割を求められる職業です.それは急変対応の場面ももちろんですが,今後医師としてのキャリアを積んでいくなかで,必要になるスキルがリーダーシップです.

優れたリーダーになるために飛躍の機会となった経験,いわゆる「一皮むけた経験」,を多くのリーダーに尋ねたところ,「課題」「修羅場」「上司(とのつながり)」というキーワードが出てきたそうです1).急変対応は,そこに最初に駆けつけることの多い研修医の先生にとっては「課題」であり,さらにその現場は「修羅場」にもなり,優れたマネジメントを行った「上司」の姿をみる機会でもあります.まさしく,「一皮むけた経験」になることは間違いなしです.

ただし,ただ経験するだけでは,身につきません.経験学習の理論を説明したKolbのlearning cycleを示します().急変対応を「経験」した後に,このサイクルを1周させることで,ようやく学びとなります.ぜひ,やってみてください.

なお,「振り返り」を,一緒に対応した医師・看護師の方とともに行うことができれば,さらに学習は深まることでしょう.研修医の先生からは声をかけにくい,という気持ちがあるかもしれませんが,自身の学習のためと素直に伝えれば,応じてくれることと思います.このサイクルのキーポイントは,「抽出・概念化」です.振り返りから出てきた課題を文章化し,課題への対応策を考えてみてください.自分で概念化したプランをシミュレーションし,次の経験につなげていきましょう.

 おわりに

急変対応は,臨床のなかでも応用編に位置する,難しい課題だと思います.しかし,最初に患者さんに接することの多い研修医の皆さんにとっては,予想外に身近で,いつ何時遭遇してもおかしくない課題です.このギャップを埋めるには,事前に十分に知識を深めること,頭のなかで何度もシミュレーションすること,そして,経験を得た後には十分に振り返ることで,コツコツ対応を身につけるしかありません.

われわれは科学者です.この特集をきっかけに皆さんが学びを進められ,患者さんの病態に対する根拠をもって,主体的に,積極的に,次の急変対応へ立ち向かわれることを祈っています.

引用文献

  • 高尾義明,林 幹雄:経験学習とリーダーシップ開発.「指導医のための医学教育学」(錦織 宏,三好沙耶佳/編),pp222-231,京都大学学術出版会,2020
  • Yardley S, et al:Experiential learning:AMEE Guide No. 63. Med Teach, 34:e102-e115, 2012(PMID:22289008)

著者プロフィール

溝辺倫子(Michiko Mizobe)
東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科
自分の研修医生活を振り返りながら,この原稿を書いています.私の「一皮むけた経験」はまさしく研修医2年目に経験した急変対応でした.今思えば,その経験が,救急医になって,医学教育に興味をもつ原点になったのかもしれません.読者の皆さんが,有意義な研修生活を送られますよう,お祈りしています.

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