レジデントノート:抗菌薬ファーストタッチ〜原因菌がわからない段階でどう動きだす?初手としてより良い抗菌薬の選び方と投与法、教えます
レジデントノート 2023年4月号 Vol.25 No.1

抗菌薬ファーストタッチ

原因菌がわからない段階でどう動きだす?初手としてより良い抗菌薬の選び方と投与法、教えます

  • 山口裕崇/編
  • 2023年03月10日発行
  • B5判
  • 162ページ
  • ISBN 978-4-7581-1695-4
  • 定価:2,530円(本体2,300円+税)
  • 在庫:あり
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特集にあたって

特集にあたって

山口裕崇
(飯塚病院 総合診療科)

良書が溢れる現代において,この特集がめざすもの

感染症をテーマとした書籍のなかには,ガイドラインや一般的な標準治療に準拠した「正解」を示すものが数多あります.それらは原則や基本を網羅しているため,マニュアル本と呼ばれることも多いでしょう.ところで,わずかに切り口を変えつつも同じようなことが同じように羅列されている書籍で溢れているというのは,はたしてなぜでしょうか.それは感染症診療が殊更に難しい領域であることの証左でしょうし,それだけ多くの医療者が困難と対峙しうる分野であることの表れだとも思います.

では,それらの「正解」を示す書籍を多く読めば,それだけスキルアップが見込めるのでしょうか.確かに多くの医学情報に触れると,知識も相応して増えるかもしれませんが,実践知やスキルが向上するかに関しては,その人しだい…と言わざるをえないでしょう.それはひとえに,日常臨床の「景色」が変わらないからです.書店に並ぶ大家の名著は原理・基本は教えてくれるでしょうが,そこから即座に「現場で目の前の患者さんに対する正解の見出し方」を会得するのは,実はハードルが高いことなのです.どれだけ本を読んでも,どんなに情報を頭に詰め込んでも,現場での見え方が変わらなければ思考のシナプスも紡がれないでしょうし,実際のプラクティスも変わらないわけです.そのようななか,この特集では「さまざまな場面における,感染症診療の基本にもとづいた抗菌薬治療のファーストタッチがわかる」ことをめざしています.

なぜ,感染症診療は難しいのか

感染症診療はとても難しい,それは間違いありません.なかでも抗菌薬治療に関して苦手意識をもつ初学者は多いはずです.事実,私自身も初期研修医になりたての半年くらいは,抗菌薬の名前や分類すらあべこべな状態でした.かつての私のような感染症診療を苦手に感じる若手医師にとって,この特集は福音です.感染症診療は,そもそも無理ゲーな抗菌薬の個別の事情を暗記する必要も,第○○世代のセフェム系…みたいな世代ごとの立ち回りを覚える必要もなく,もちろんスペクトラムに不案内でもよいのです.本特集では,「この抗菌薬はこんなヤツである」ということよりも臨床で重要な「この場面ではこの抗菌薬をこうやって使う」という実践知に,ぜひ触れてもらいたいと思います.カードゲームで例えるならば,手札のカードおのおのに関してプロファイルを把握し詳細な知識をもっていることよりも,カードの切り方や場面を選ぶ流儀の方がずっと大切だというわけですね.ちゃんとした感染症診療,すなわち適正な抗菌薬治療とは,「正解」となりうる複数の選択肢が同時多発的に存在する状況のなか,抗菌薬それぞれのポジショニングを理解したうえで,メリット・デメリットに照らし合わせてアドバンテージを見出し,より良い(ベターな)一手=ファーストタッチを選びとるプロセスであります.それには何が必要か…まず,原因菌と向き合うこと.そして,先人たちの流儀から学ぶことの2つです.

感染症診療が上手になるために,最も大切なこと

どうしたら感染症診療や抗菌薬選択が上手になりますか? と感染症専門医が質問されたら,きっと答えは十人十色でしょう.では「たった1つ」の大切なことは? と聞かれた ら…敵を知ること,原因菌のことをわかってあげること,という答えが返ってくるはずです.これは,この後の総論(p.19〜)で解説する感染症診療のトライアングルのうち重要な要素の1つであり,抗菌薬を選ぶときの要となります.患者情報や身体所見はベッドサイドである程度は揃えられるでしょうが,目の前の感染症を起こしている微生物に関しては,どんなに検査を行ったとしても即座に目に見えるわけではありません.このコロナ禍においては尚のこと,グラム染色がその場でみられない状況で微生物を想定することが大切になります.一朝一夕にそのスキルが向上することはありませんが,診療が上手になるか否かは絶対に才能なんかではありません.どんなに泥臭くても,這いつくばってでも努力を重ねることで,センスは磨かれ,あるときからフッと不思議にもアウトプットできるようになってくるものです.この特集の執筆陣を中心としたわれわれ感染症診療に携わる医師は,日常臨床を戦い抜くために,日頃から検査室へ足を運び,検査技師さんとの対話を重んじ,患者さんを目の前にするたびに幾度となく感染症診療のトライアングルを構築し,原因菌を詰めるプロセスを大切にしています.この特集は,ともに闘い,対話を重ね,患者さんと日々向き合うなかで導き出された,1つの「正解」のかたちです.読んでもらった後の皆さまに,日常臨床,ひいては明日からの感染症診療の景色が変わって見えてくれることを,切に願っています.

参考文献・もっと学びたい人のために

  • 「レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版」(青木 眞/著),医学書院,2020
  • 「抗菌薬の考え方,使い方 ver.5」(岩田健太郎/著),中外医学社,2022
  • 「第3版 感染症診断に役立つグラム染色」(永田邦昭/著),シーニュ,2022

著者プロフィール

山口裕崇(Hirotaka Yamaguchi)
飯塚病院 総合診療科
総合内科専門医・感染症専門医
2012年九州大学医学部卒業,沖縄の敬愛会中頭病院にて初期研修から4年間在籍(群星沖縄プロジェクト),北九州市小倉にある健和会大手町病院で感染症科フェローシップの2年間を経て,2018年から飯塚病院 総合診療科(Hospitalist team)に所属している.本当に大切なものって何だろう…『星の王子さま』の“Le plus important est invisible(かんじんなことは,目に見えないんだよ)”が座右の銘である.

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