レジデントノート:救急外来 帰宅後まで考えた病状説明とフォローアップ〜帰宅指示書の書き方から頻用薬の処方、ケア移行まで
レジデントノート 2025年8月号 Vol.27 No.7

救急外来 帰宅後まで考えた病状説明とフォローアップ

帰宅指示書の書き方から頻用薬の処方、ケア移行まで

  • 坂本 壮/編
  • 2025年07月10日発行
  • B5判
  • 154ページ
  • ISBN 978-4-7581-2737-0
  • 2,530(本体2,300円+税)
  • 在庫:あり

特集にあたって

特集にあたって

坂本 壮
(総合病院国保旭中央病院 救急救命科 医長)

 はじめに

初期研修医の皆さん,救急外来での診療には少しずつ慣れてきたころでしょうか.とはいえ,救急の現場は毎日が予測不能.慣れたと思った矢先に,また新たな難題が立ちはだかる…そんなくり返しのなかにいるのではないでしょうか.

限られた時間と限られた情報のなかで,目の前の患者さんに何ができるかを模索する毎日.得意な症候に自信がつく一方で,苦手な主訴にはまだ戸惑いが残る.なかでも,多くの研修医が悩むのが,患者さんやご家族とのコミュニケーションではないでしょうか.

救急外来で求められる“説明力”

救急外来における患者満足度に関する報告では,満足度に影響する因子として,① スタッフの態度,② 患者さんへの説明,③ コミュニケーション,④ 待ち時間,⑤ 環境要因があげられています1).つまり,正しい診断と治療だけでは,患者さんの満足は得られないのです.

医師として適切な判断をし,必要な処置を行ったとしても,それが相手に伝わっていなければ意味をなしません.どれほど正しい医療であっても,患者さんがその価値を理解し,納得していなければ,その効果も信頼も得られない.医療の質とは,知識と技術に加え,それをどう伝えるかで決まるのです.

タイムマネジメントと「検査の罠」

混雑が常態化した救急外来において,タイムマネジメントはきわめて重要です.診療を効率よく進めるため,つい「とりあえずの検査」に頼りたくなる気持ちは理解できます.しかし,必要以上の検査は患者さんの時間と医療資源を奪うだけでなく,不必要な介入を招くリスクもはらみます.例えば,感冒の診断に検査は不要です.急性腰痛症も,危険なサインがなければ画像検査は原則として不要.腹痛に関しても,多くのケースではCTよりもベッドサイドの超音波で十分に対応可能です.発熱に対する血液培養も,「なんとなく」でルーチン化されていないでしょうか.

もちろん,「今は不要」であっても,将来的に必要となる検査は存在します.だからこそ重要なのは,「今,この瞬間」に行うべきことを見極める判断力,そして以下に述べる視点です.

3グレーゾーンを見守るという選択

救急外来では,「白か黒か,今すぐ決めなければならない」と思いがちです.しかし,すべてをその場で結論づける必要はありません.むしろ,現時点では“グレー”であることを認め,時間の経過によって白か黒かを見極めていくという柔軟な姿勢が,洗練されたマネジメントにつながります.

判断を引き延ばすことは「迷い」ではなく,れっきとした判断です.限られた初期情報のなかで「今必要なこと」を明確にし,過剰に介入せず,必要なときに必要な対応を行う.それが,本来の救急診療の在り方です.

時間はときに診断の強力な味方になります.焦って結論を急ぐのではなく,時間に委ねる勇気もまた,救急医に求められる資質の1つです.

4スマートな「帰宅」に必要なもの

そしてもう1つ,忘れてはならないのが「帰宅時の説明」です.その際に有用なツールとなるのが帰宅指示書であり,次頁に示すような項目を記載することが望ましいとされています(「Part2:代表的な症候に対する帰宅指示書」参照)2).たとえ医学的に帰宅が妥当と判断されたとしても,患者さんやご家族の納得と理解が得られなければ,帰宅という選択は成立しません.診療の締めくくりとして,安心と納得を届けるための説明は,決しておろそかにできない重要なプロセスなのです.

「この後はかかりつけ医で経過をみてください」と伝える場面も多いでしょう.しかし,その意図や意味が伝わっていなければ,必要なフォローアップが行われず,再受診や症状の悪化を招くおそれもあります.

“帰宅可能”の判断には,医学的妥当性とコミュニケーションの両輪が欠かせないのです.

●帰宅指示書フォーマット

①「何の病気なのか?」(What is wrong with?)→「今回の症状・診断について」
 例:○○の可能性が高いです/○○の疑いがあります/明確な診断はついていませんが,○○の可能性が考えられます

②「自宅で何をすべきか?」(What should I do at home?)→「自宅での過ごし方・注意点」
 例:○○を避けて安静にしてください/△△するようにしましょう/××のような症状があれば対応が必要です/□□の薬を指示通りに服用してください

③「いつよくなるのか?」(When am I going to feel better?)→「回復までの目安」
 例:通常○○日程度で改善します/××の場合はもう少し時間がかかることがあります

④「どこで追加の診察を受けるべきか?」(You need to see another doctor.) →「必要なフォローアップ」
 例:○○日以内に□□科を受診してください/症状が続く場合は,△日以内にかかりつけ医に相談してください

⑤「すぐに救急を受診すべき場合」(You need to return to the emergency department immediately.)→「救急受診が必要な症状」
 例:××の症状が現れたら,すぐに救急を受診してください/△△のような変化があれば,ためらわずに受診してください)

 おわりに

今回の特集では,救急外来から「安心して患者を帰宅させる」ために必要な視点や技術を,多角的に掘り下げます.“見逃さない”ことと同じくらい,“帰せる”という判断に自信をもてる医師へと成長してほしい.そんな想いを込めて,現場で明日から使える知識と工夫をお届けします.

スマートな帰宅は,ただ「軽症を帰す」ことではありません.患者にとっても医療者にとっても,意味のある“決断”です.本特集が,その判断力と説明力を磨く一助となることを願っています.

引用文献

  • Haruna J, et al:Emergency Nursing-Care Patient Satisfaction Scale (Enpss):Development and Validation of a Patient Satisfaction Scale with Emergency Room Nursing. Healthcare (Basel), 10:518, 2022(PMID:35326996)
  • McCarthy DM, et al:Emergency Department Discharge Instructions:Lessons Learned through Developing New Patient Education Materials. Emerg Med Int, 2012:306859, 2012(PMID:22666597)

著者プロフィール

坂本 壮(So Sakamoto)
総合病院国保旭中央病院 救急救命科 医長
救急外来で研修医とともに日々診療にあたる一方で,全国の研修医の皆さんとも学び合う機会をいただいています.どこで出会っても,研修医の悩みは共通しています.大切なのは,他人と比べることではなく,過去の自分と比べて少しでも前に進んでいるかどうか.焦らず,着実に,一歩ずつ成長していきましょう.
もちろん,息抜きも忘れずに.私自身,今年もたくさんの劇場を訪れ,大好きなミュージカルの世界に心を解き放つ予定です.
研修医向けのセミナーや学びに役立つ情報も発信しています.よろしければ,ぜひフォローしてください(X:@Sounet1980).

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