特集にあたって 特集にあたって 野口善令(藤田総合診療プログラム 豊田地域医療センター 総合診療科) 企画の意図 初期研修医や専攻医からは「不明熱」の診断や対応に難しさを感じるという声が多く寄せられます.実際には,一般外来や救急外来,病棟といった日常診療で遭遇する「不明熱」の多くは,古典的不明熱の定義を満たさない,いわば「ちょっと見不明熱」であることが多いです.こうした発熱に対して「本格的な」不明熱と同様の網羅的・精査的アプローチをとると,診断が迷走し,無駄な検査や治療につながる恐れがあります.本特集では「本格不明熱」はあえて控えめに扱い,日常診療において遭遇頻度の高い「ちょっと見不明熱」に焦点をあて,その見立てと対応の工夫を考えます. まず本特集では,「ちょっと見不明熱」と「本格不明熱」の違いを明確にし,両者を混同することで生じる診療上の混乱を整理します.「ちょっと見不明熱」とは,発熱の原因がすぐには判明しないものの,比較的短期間の経過観察や基本的な検査で診断に至ることが多いケースです.一方,「本格不明熱」は古典的定義に基づく,より複雑で診断困難な病態を指します.この区別を理解することが,適切な診療アプローチの第一歩となります. 「ちょっと見不明熱」へのアプローチでは,病歴聴取と身体診察から得られる手がかりを重視した実践的な診断プロセスを提示します.網羅的な検査を急ぐのではなく,時間軸を意識した経過観察の重要性,再診のタイミング,症状の変化をどう捉えるかといった,日常診療で即座に活用できる思考法を解説します. 特に注意を要するのが高齢者の発熱です.高齢者では典型的な症状が乏しく,複数の併存疾患や服薬の影響もあり,診断が困難になりがちです.高齢者特有の「ちょっと見不明熱」の鑑別ポイントや見逃してはならない病態について,実践的な視点から論じます. また,入院中に新たに発症した発熱は,市中感染とは異なる原因を考慮する必要があります.院内感染,カテーテル関連感染,薬剤熱,血栓症など,入院という特殊な環境下での「ちょっと見不明熱」への系統的アプローチを提示します. 診療現場では,原因不明の発熱に対して安易に“かぜ”という診断名をつけてしまうことがあります.しかし,この曖昧な病名は診療の質を低下させ,重要な診断の遅れにつながる危険性があります.“かぜ”という診断名に頼らない,より正確な臨床推論の実践について考察します. さらに,「ちょっと見不明熱」における抗菌薬と解熱薬の使用タイミングは,若手医師が最も悩むポイントの1つです.経験的治療を開始すべき状況,待機的観察が適切な場合,解熱薬使用の利点と欠点など,エビデンスと臨床経験に基づいた実践的な指針を示します. 最後に,「本格不明熱」についても簡潔に触れます.古典的定義,主要な原因疾患,専門的な精査が必要となる判断基準など,「ちょっと見不明熱」から「本格不明熱」への移行を見極めるポイントを整理します. 本特集が,日々の診療で発熱患者に向き合う若手医師の一助となり,過剰でも過少でもない,バランスのとれた診療実践につながることを期待しています. 著者プロフィール 野口善令(Yoshinori Noguchi)藤田総合診療プログラム 豊田地域医療センター 総合診療科藤田総合診療プログラムで教育専従職として若手医師の育成に専念するようになりました.当プログラムは「教育の力で医師を育て,地域・世界を変革する」を理念に,専攻医一人ひとりに向き合った教育を実践しています.年次・背景を問わず,総合診療に興味のある方を歓迎します.病院見学はいつでもお越しください.