春の研修医応援企画ドリル祭り2020

頭痛と歩行障害で救急受診した70歳代男性

頭痛と歩行障害で救急受診した70歳代男性

70歳代男性,頭痛で近医受診.頭部CTでは異常なしと診断された.翌日より歩行困難と嘔吐が生じたため救急受診し,頭部CTが施行された.

診断は何か?次に何をすべきか?
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解答

A1.椎骨動脈解離による延髄外側梗塞
A2.脳外科へのコンサルト

1.診断のポイント

延髄右側に拡散強調像高信号がみられ(図1▶︎)ADC値も低下している(非呈示).急性期梗塞の所見である.MRAでは右の椎骨動脈が全く描出されていないが(図2▶︎),FLAIRでは淡い高信号として描出されており,内部に低信号域がみられる(図3▶︎).同日のCT血管造影では右椎骨動脈は動脈相で淡い造影効果を呈し,内部にflap状の構造がみられる(図4▷).右椎骨動脈解離による延髄梗塞である.

2.鑑別診断1)

延髄に病変をきたすものが鑑別となりうる.

1 梗塞

椎骨動脈解離によらないラクナ梗塞,アテローム血栓性梗塞で延髄梗塞をきたす.アテローム血栓性梗塞は延髄外側よりも内側に起こりやすい.

2 腫瘍

毛様細胞性星細胞腫,血管芽腫や,低悪性度の神経膠腫,神経膠芽腫などが鑑別にあがるが,低悪性度の神経膠腫以外は頻度も少なく,経過も異なる.

3 感染・炎症性疾患

小さな膿瘍が梗塞と紛らわしい場合があるが,稀である.感染性脳炎としてHIV患者におけるサイトメガロウイルス感染,単純ヘルペスウイルス感染で延髄単独病変の報告がある.またADEM(acute disseminated encephalomyelitis:急性散在性脳脊髄炎)が片側性に延髄病変をきたす場合がある.しかし,これらの経過や症状は延髄梗塞とは異なる.

図1 拡散強調像
図2 MRA
図3 FLAIR
図4 CT血管造影
4 脱髄疾患・代謝性疾患など

視神経脊髄炎関連疾患,多発性硬化症の延髄病変が片側性に出現する場合がある.Sjögren症候群,Behçet病,サルコイドーシスも片側に出現する場合がある.ただしこれらも経過や症状は延髄梗塞とは異なると思われる.

5 その他

PRES(posterior reversible encephalopathy syndrome:可逆性後頭葉白質脳症)やAVF(arteriovenous fistula:動静脈瘻)で延髄に病変をきたす場合がある.また,肥大性オリーブ核変性症など類似の画像を呈する.

3.次の一手

脳外科にコンサルトを行う.画像的にはMRI撮像時に3Dグラディエント造影T1強調像が撮像できれば血管内膜のflapや解離腔自体の描出が可能であるが,病歴などから解離や梗塞を疑わなければ咄嗟に判断して造影するのは難しいかもしれない.延髄を含む後方循環系の梗塞は内頸動脈領域の梗塞と比較して発症早期での拡散強調像での偽陰性率が高く2),延髄では24時間以内での偽陰性率が高いとの報告があるため、発症早期に拡散強調像高信号が見られなくても超急性期の延髄梗塞を除外できないので注意しなければならない3,4)

救急医Check Point

脳動脈解離は,欧米では頭蓋外内頸動脈に多く,本邦では頭蓋内椎骨動脈に多い.40〜50歳代の比較的若年者に発生する.最も頻度の高い症状は頭痛,頸部痛で70〜80 %に認められ,椎骨動脈解離では後頭部や項部に限局した痛みがみられる.頭痛の特徴としては,はじめての痛み,顔面痛あるいは頸部痛,片側性,持続性(1カ月以内に寛解)などで,解離に伴う痛みであるにもかかわらず必ずしも突然ではなく緩徐に発症することも多い.頭痛の性状は多岐にわたり日常生活に支障がない程度の場合もあるため,性状のみで一般的な頭痛と区別することは困難である.首を鳴らす,急激に振り向くなどの頸部の回転動作の後に頭痛,頸部痛が発生した場合は椎骨動脈解離を疑うきっかけとなる.

発症様式は「虚血(脳梗塞,TIA)」「出血(くも膜下出血)」「無症状もしくは頭痛のみ」の3型となり,出血の有無が患者の予後を最も左右する.本症例を疑った場合は脳神経外科医への紹介が必須だが,「虚血」「出血」発症を疑った場合は可及的すみやかに外科的治療(血管内治療含め)を検討する必要がある.病理所見により確定診断となるが,実臨床においては画像検査(脳血管造影,CT,MRI)にて診断される.まずCTにて「虚血」「出血」の有無を評価し,その後はCTA,血管造影,MRI(MRA,BPAS)で詳細な評価をしていく.遠位の虚血のほとんどは,解離部位の部分的な狭窄や閉塞による低灌流によってではなく,解離部位から放出された塞栓によって起こる.「虚血」「無症状もしくは頭痛のみ」発症の場合は初回の画像検査での診断が困難なことが多いが,発症から3週間程度の間に患部に形態変化を生じることがよくあるため,発症時の症状(頭痛)で疑い,臨床経過,画像経過をフォローすることが重要である.

引用文献

  • Prakkamakul S, et al:MRI Patterns of Isolated Lesions in the Medulla Oblongata. J Neuroimaging, 27:135-143, 2017
  • Oppenheim C, et al:False-negative Diffusion-Weighted MR Findings in Acute Ischemic Stroke. AJNR Am J Neuroradiol, 21:1434-1440, 2000
  • Seo MJ, et al:Diffusion Weighted Imaging Findings in the Acute Lateral Medullary Infarction. J Clin Neurol, 2:107-112, 2006
  • Kitis O, et al:Wallenberg’s Lateral Medullary Syndrome:Diffusion-Weighted Imaging Findings. Acta Radiol, 45:78-84, 2004

参考文献

  • 「ここまでわかる頭部救急のCT・MRI」(井田正博/著),メディカル・サイエンス・インターナショナル,2013

(2020/5/1公開)

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