春の研修医応援企画ドリル祭り2020

咽頭痛,特に開口時痛著明な20歳代女性

咽頭痛,特に開口時痛著明な20歳代女性

20歳代女性,2カ月前から咽頭痛,扁桃腫大にて近医を受診.抗菌薬などで症状はいったん改善していた.1日前から咽頭痛が再燃し,本日咽頭痛の増強,特に開口時痛著明で,救急外来受診となった.

造影CTの所見は?診断は?
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解答

A1.右扁桃周囲膿瘍と咽頭後間隙の高度な浮腫性変化
A2.扁桃周囲膿瘍

図1 扁桃周囲腫瘍の造影CT

1.診断のポイント

1 造影CT所見

右口蓋扁桃は腫大しており,内部に膿瘍形成を疑う液体貯留を認める(図1).また,咽頭後間隙など周囲軟部組織に炎症波及による浮腫性変化がみられる.

2 扁桃周囲膿瘍

扁桃炎から生じる扁桃周囲に限局した膿瘍であり,発熱,咽頭痛,開口障害の症状を呈する.通常片側性であるが,両側性の報告1)もみられる.20~30歳代と比較的若年でみられることが多い.

口蓋扁桃下極側を中心とする下極型の扁桃周囲膿瘍では喉頭蓋を含めた声門上喉頭にしばしば進展し,気道狭窄/閉塞をきたす傾向があることから注意深い画像診断と臨床評価が必要となる.通常の上極よりの膿瘍と比較して経口的排膿が困難な場合がある点も臨床的に重要である.

図2 参考症例は扁桃周囲腫瘍 下極型の造影CT

参考症例:扁桃周囲膿瘍 下極型

40歳代男性,呼吸困難を訴え,近医受診し,ステロイド点滴されるも,酸素化低下,呼吸停止があり,救急搬送となった.

心肺停止蘇生後,気道確保後に撮影された造影CT(図2)では喉頭蓋を含めた声門上喉頭の著明な浮腫性変化,腫大がみられる.左口蓋扁桃下極に膿瘍形成がみられ,こちらからの炎症波及と考えられた.

2.鑑別診断

■ 中咽頭癌(扁桃癌)

画像所見上は鑑別となるが,臨床経過などが異なるため,実臨床での鑑別は容易と思われる.

3.次の一手

造影CTにて膿瘍形成が明らかではない場合には抗菌薬投与などの内科的加療となり,膿瘍形成がある場合には周囲深部組織間隙への進展範囲評価にあわせて穿刺吸引あるいは切開排膿といった外科的治療を考慮し,耳鼻咽喉科医にコンサルテーションする.

救急医Check Point

急性喉頭蓋炎の場合と同様に,まず上気道閉塞の可能性があるかどうかについて評価し,吸気性喘鳴・起坐呼吸・チアノーゼなどの高度の気道狭窄症状1)を認め,酸素化が維持できない場合は診断よりもまず気道確保を優先する.気道確保においては経口での気管挿管が困難な可能性があるため,輪状甲状靱帯切開などの外科的気道確保ができる耳鼻咽喉科医,救急医,外科医や全身管理のできる麻酔科医などを招集し,気管挿管が失敗した場合に即座に外科的気道確保ができる体制を整えたうえで気道を確保する.その後,穿刺を行い,排膿を認めれば確定診断となる.得られた膿の培養に基づいて抗菌薬にて治療を行う.また,扁桃周囲膿瘍は解剖学的連続性1)から傍咽頭間隙膿瘍,咽後膿瘍,縦隔膿瘍に進展している可能性があり,その場合には扁桃以外に追加で放射線科によるCTガイド下でのドレナージや心臓血管外科,胸部外科による外科ドレナージが必要となるため,造影CTでそれらの膿瘍を認めた場合は当該科へのコンサルトが必要である.

文献:1)渡辺哲生:解剖から見た扁桃周囲膿瘍・深頸部膿瘍.口咽科,29:9-17,2016

文献・参考文献

  • 海邊昭子,他:扁桃周囲膿瘍115症例の臨床的検討.日耳鼻,118:1220-1225,2015
  • 「頭頸部の臨床画像診断学 改訂第3版」(尾尻博也/著),南江堂,2016

(2020/5/8公開)

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