春の研修医応援企画ドリル祭り2020

症例:突然発症の腹部痛で救急外来を受診した60歳代女性

66歳女性.50歳代前半から糖尿病,高血圧の既往があり,慢性腎臓病 (Cr 1.3 mg/dL,eGFR 32.3 mL/分/1.73 m2)で加療中である.安静時に突然発症の左側腹部痛を自覚し,症状の改善が乏しいため,救急外来を受診した.

身長151 cm,体重52 kg

バイタルサイン:意識清明,血圧148/72 mmHg,脈拍数84回/分(不整)

身体所見:左側腹部に圧痛と叩打痛

尿検査所見:定性;比重 1.013,pH 6.0,蛋白2+,糖+,ケトン体−,潜血−.

血液検査所見:WBC 11,000/μL,Hb 10.4 g/dL,Plt 22.1×104/μL,PT 11.2 秒,AST 17 IU/L,ALT 13 IU/L,LDH 411 IU/L,BUN 19.2 mg/dL,Cr 1.4 mg/dL,HCO3 19.1 mmol/L,LDL-Cho 144 mg/dL,HbA1c 7.6%,PT-INR 1.1,D-dimmer 16.4 μg/mL

心電図:心房細動

心房細動による血栓塞栓症が疑われ,造影CTを撮像することとなった.

問題2-1:本症例の造影剤腎症発症リスクはあるか?問題2-2:どのように造影CT 撮像時の造影剤腎症を予防するか?
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解答

問題2-1の解答:ⓑリスクを考慮する必要がある
問題2-2の解答:ⓑ 生理食塩水による予防輸液,ⓓ 重曹輸液による予防輸液

2 慢性腎臓病患者の造影剤腎症予防

1)本症例の造影剤腎症発症リスクは?

❶ 造影剤腎症とは

造影剤腎症の診断基準

  1. ヨード造影剤使用後72時間以内に血清Cr値が前値より0.5 mg/dL以上または25%以上増加し,ほかの原因が除外される
  2. ヨード造影剤使用後48時間以内に血清Cr値が基準値より0.3 mg/dL以上または1.5倍以上増加し,ほかの原因が除外される (KDIGOによるAKI診断基準に準拠)

❷ 造影剤腎症発症リスク

造影剤腎症は,慢性腎臓病の急性増悪であり,腎機能正常者に発症することは稀です.どの程度の腎機能低下がリスクとなるかについて一定の見解はないですが,各ガイドラインではeGFR 30,45,60 mL/分/1.73 m2をそれぞれカットオフ値としています(表4).

また,造影剤腎症発症リスクとして,糖尿病(糖尿病性腎症),脱水症,うっ血性心不全,高齢,腎毒性物質(NSAIDsなど)が報告され,これらのリスク因子を用いたリスクスコアが複数開発されています1).本稿では経皮的冠動脈造影を対象とした代表的なリスクスコアを提示します(表5).造影CTが発症のリスクとなる根拠は示されていませんが,本症例は高齢で糖尿病の既往があり,eGFRが32.3 mL/分/1.73 m2であることから,CT撮影に際しては造影剤腎症のリスクを考慮する必要があります.

表4 ガイドラインの比較

❸ 造影CTは造影剤腎症のリスクとなるか?

造影剤腎症は,心臓カテーテル検査後の急性腎障害として報告され,その後に造影CT後の急性腎障害も含めるように概念が拡大されました.当初,造影CTにおける造影剤腎症発症リスクは6.4%(0〜25%)と報告されていましたが,近年では,“造影剤の使用の有無によらずCT撮像後に一定の割合で腎機能の悪化を認める”との報告が増えています.例えば,McDonaldらは約12,500例の造影CT撮像者を造影剤非投与者と比較し,腎機能によらず造影剤の使用は急性腎障害発症のリスクとならないことを報告しています2).一方で,Davenportらは約9,000例の造影CT 撮像者を造影剤非投与者と比較し,eGFR <30 mL/分/1.73 m2の患者でリスク因子(オッズ比2.96)になると報告しています3)

表5 CINリスクスコア
2)造影剤腎症は予防できるのか?

❶ 予防輸液の目的と方法

造影CTが造影剤腎症発症リスクとなるか否か自体に議論があるため,確立した予防法は存在しません.一方で,予防輸液は多くの場合で非侵襲的なので,病状が許せば心臓カテーテル検査に準じた予防輸液の施行が推奨されます.

予防輸液は循環血漿量を増加させること,尿細管内での造影剤濃度を低下させることが目的であるため,心臓カテーテル検査では検査の6〜12時間前より等張性輸液 (生理食塩水)を投与することが一般的です.実際に,等張性輸液 (生理食塩水)と1号液の比較では等張性輸液 (生理食塩水)のほうが予防効果が高いことが報告されています.一方で,重曹輸液(Na 154 mEq/L)による尿のアルカリ化が活性酸素の産生を抑え,高い予防効果が効果を示す可能性も報告されています4).等張性輸液との比較では,重曹輸液の短時間投与が生理食塩水の従来投与と同程度に造影剤腎症の発症を予防すると報告されています5)

以下に等張性輸液と,重曹輸液の投与例を示します.

  • 等張性輸液:生理食塩水 1 mL/kg/時,検査前 6〜12時間+検査後6〜12時間
  • 重曹輸液:1.26%重炭酸ナトリウム,検査前 3 mL/kg/時で1時間+検査後 1 mL/kg/時で6時間

❷ 予防輸液の適応

静脈からの非侵襲的造影(造影CTなど)を行う際,病状の安定した患者では30 mL/分/1.73 m2,集中治療領域や重症救急外来患者では45 mL/分/1.73 m2で予防投与されることが多いです.また,心臓カテーテル検査などを行う際の動脈からの侵襲的造影では 60 mL/分/1.73 m2で予防投与がされることが多いです.

❸ 症例2での対応

症例2では,明らかな体液過剰がなく,症状から造影CTの撮像が必要と考えられたため,受診時より重曹輸液(3 mL/kg/時)を開始しました.疼痛が持続していたため,血液検査の結果を待って造影CTを撮像したところ脾梗塞の診断となりました.

文献

  • 1) Tsai TT, et al:Validated contemporary risk model of acute kidney injury in patients undergoing percutaneous coronary interventions:insights from the National Cardiovascular Data Registry Cath-PCI Registry. J Am Heart Assoc, 3:e001380, 2014(PMID:25516439)
  • 2) McDonald JS, et al:Risk of intravenous contrast material-mediated acute kidney injury:a propensity score-matched study stratified by baseline-estimated glomerular filtration rate. Radiology, 271:65-73, 2014(PMID:24475854)
  • 3) Davenport MS, et al:Contrast material-induced nephrotoxicity and intravenous low-osmolality iodinated contrast material:risk stratification by using estimated glomerular filtration rate. Radiology, 268:719-728, 2013(PMID:23579046)
  • 4) Mueller C, et al:Prevention of contrast media-associated nephropathy:randomized comparison of 2hydration regimens in 1620 patients undergoing coronary angioplasty. Arch Intern Med, 162:329-336, 2002(PMID:11822926)
  • 5) Zoungas S, et al:Systematic review:sodium bicarbonate treatment regimens for the prevention of contrast-induced nephropathy. Ann Intern Med, 151:631-638, 2009(PMID:19884624)

(2020/5/19公開)

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