春の研修医応援企画ドリル祭り2020

症例:インフルエンザにより発熱がみられる2歳男児

2歳男児.尿の回数が普段より少ないことを主訴に母親とともに小児科外来を受診した.昨晩から39℃台の発熱のために不機嫌で,食欲はやや低下しているが水分は少量ずつならば飲めている.意識清明,鼻汁と咳嗽はあるが嘔吐や下痢は認めない.診察の結果,脱水の程度は「軽度」であり,発熱の原因はインフルエンザA感染によるものと判明した.

問題2:脱水に対する適切な輸液プランはどれか?
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解答

ⓓ経口補水液による経口補液療法

2 インフルエンザによる発熱に伴った軽度の脱水

小児患者では発熱による不機嫌に伴い,水分摂取量の低下がしばしばみられます.バイタルサインが安定していて,嘔吐・悪心などがない場合には経口による水分補給を試みましょう.

1)口補液療法ってなんですか?

経口補液療法(oral rehydration therapy:ORT)とは経口補水液(oral rehydration solution/salts:ORS)を用いて,水分と電解質を経口もしくは経鼻胃管より投与する方法です.もともとは急性胃腸炎に伴う軽度の脱水,または循環の保たれている中等度の脱水の予防・補正に対して推奨されており,今ではORTは世界標準の治療法となっています.また経口で摂取できることから,自宅でも実践可能な治療法といえるでしょう.現在,日本で欧米のガイドラインと合致する組成のORSは経口補水液OS-1(オーエスワン®)とソリタ®-T配合顆粒2号のみですが1),そのほかの選択肢としては,OS-1に組成が近くさらに低浸透圧にした明治アクアサポート®や,Na濃度とブドウ糖濃度の至適比率を保ちつつ,それぞれの濃度を低下させて175 mOsm/Lの低浸透圧にしたアクアソリタ®などもORSとして利用可能です.

ここがコツ:ORSが自宅にない場合

ORSが自宅にない場合には,食塩3 g(小さじ1/2杯),砂糖18 g(小さじ6杯)を水 1 Lに溶解したものでも代用できます.ただしカリウムが含まれておらず組成は厳密ではありませんので,あくまでも緊急避難措置としての位置付けです2)

2)具体的なORTの方法はどうすればいいですか?

ORTは以下の2つの相(フェーズ)で行います.

  1. ①補水相:下痢や嘔吐により喪失した,現在不足している水分と電解質の補充
  2. ②維持相:下痢や嘔吐が持続することにより喪失していく水分と電解質の補充

軽症から中等症の脱水がすでにある場合には,補水相より開始します.症例2では嘔吐・下痢はありませんでしたが,水分摂取量の低下による脱水が生じていると考えて補水相からはじめました.欧米のORTに関するガイドラインによれば,初期輸液としてのORTは「50~100 mL×体重(kg)のORSを3~4時間かけて投与する」というやり方が一般的です2).ティースプーン,注射器,スポイトを用いて,ティースプーン1杯もしくは5 mL程度で投与開始し,徐々に増量していきます.簡易的にペットボトルの蓋(約5 mL)を用いてもよいでしょう.成人と比較して細胞外液量が多く水分代謝の速い年少児では「嘔吐があるうちは何も飲ませない」という指導をすると容易に脱水に陥る可能性があるため,嘔吐がある場合でも少量からORTを開始します.なお,ORTもしくは経静脈的輸液により脱水が補正された後は,すみやかに維持相の治療に移行し,嘔吐や下痢などによる水分喪失と電解質をORSによって適宜補充していきます.

【Advanced Lecture】新生児に対する輸液

同じ小児患者でも,新生児に対する輸液戦略は乳幼児以降のそれとは大きく異なります.出生直後は体液のうち細胞外液の割合が非常に高く,腎機能も未熟なため,不適切な輸液によって水・電解質異常が容易に起こり得ます3).体全体に占める水分量は在胎週数が早いほど大きく,体重に対する体内水分量の割合は正期産児で75%,早産児で80~85%以上です.しかし生後3~5日目ごろには,尿や便の排泄,不感蒸泄によって細胞外液として分布する自由水が失われ,生理的体重減少(出生体重のおおよそ5~10%減少)を認めます.したがって出生直後の低ナトリウム血症は希釈性の場合が多く,体内でナトリウムが欠乏した状態ではないことに留意しましょう.出生早期にナトリウム含有の輸液を行ってしまうと,生理的体重減少の時期(利尿期)には低浸透圧尿(自由水)が多量に排出され,急速に血清ナトリウム濃度が上昇してしまうことがあるため注意が必要です.

文献

  • 1)Holliday MA, et al:Fluid therapy for children: facts, fashions and questions. Arch Dis Child, 92:546-550, 2007(PMID:17175577)
  • 2)小児急性胃腸炎診療ガイドラインワーキンググループ:小児急性胃腸炎診療ガイドライン. 「エビデンスに基づいた子供の腹部救急診療ガイドライン2017」(日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会/編), 2017
  • 3)仁志田博司:水・電解質バランスの基礎と臨床. 「新生児学入門 第5版」(仁志田博司/編), pp228-239, 医学書院, 2018

(2020/5/22公開)

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