春の研修医応援企画ドリル祭り2021

77歳男性.30年ほど前から高血圧と糖尿病を指摘され,経口薬にて治療を受けてきた.先月,脳梗塞にて救急搬送され,その後リハビリを中心に行う医療センターに転院したが,このたび自宅へと退院できることとなった.リバビリ病院では,嚥下機能が低下しているため,経腸栄養剤にて管理している.

この患者さんの退院後の経腸栄養剤の選択について正しいものはどれか?
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解答

c:経腸栄養剤の摂取が長期化すると考えられるため経済面の配慮を行う

医薬品扱いの栄養剤のメリット

医薬品扱いの経腸栄養剤は医師の処方が必要で,そのメリットとして,在宅患者において経腸栄養剤を保険適応で購入できること,医師の処方のもと投与・摂取できることがあります.入院時は医薬品扱いの栄養剤は薬剤部から薬剤として,食品扱いの栄養剤は栄養部から食事として提供されています.DPC病院(診断群分類により1日あたり定額報酬を算定する)では医薬品は病院の持ち出しですが,食品は食事療養費あるいは食事代としてコストの請求が可能で,DPC病院では食品が優先されることが多いです.一方DPC病院でなければ医薬品が使用されることも多いと考えられます.医薬品と食品での違いは表1にまとめました.在宅での経腸栄養管理が長くなる場合は,病態や性状だけでなく,経済面も考慮したいですね.

表1:経腸栄養剤の分類:医薬品扱い経腸栄養剤と食品扱いの経腸栄養剤の違い
医薬品扱いと食品扱いの栄養剤の特徴をおさえて使い分けよう!

病態別経腸栄養剤を知ろう

それぞれの疾患の結果として生じる代謝異常に対する栄養面からのアプローチとして,栄養素の組成や質に特徴をもたせ各疾患に対応した経腸栄養剤があります(表2).糖尿病に対しては糖質を減量し脂質の割合を増やした製品と,糖質の質を血糖が上がりにくいものに置き換えた製品があります.糖質の割合を減量した経腸栄養剤にはグルセルナ®–REX(アボット)があり,脂質の内容も一価不飽和脂肪酸が多い状態になっています.また,インスロー®(明治)では糖質の7割をパラチノースに置き換えています.こうした栄養剤の選択は,血糖上昇を抑え,インスリンの必要量も少なくできるため,血糖コントロールに有効であると認識されています.また,タピオカデキストリンを使用したものなども販売されています.そのほか,肝不全用経腸栄養剤では,肝不全によってアンモニア代謝のために筋肉で利用率が高まる分岐鎖アミノ酸の割合を増加させ,肝臓での代謝が低下する芳香族アミノ酸の割合を減らしています.筋肉で利用できる分岐鎖アミノ酸を利用することによって,タンパク合成が促進され,生存率やQOLが改善することが報告されています.さらにカリウムやタンパク質量を調整した腎不全用栄養剤,脂質の割合を増やした慢性呼吸不全用栄養剤などがあります.経腸栄養剤に含有されるNaは少ないと認識されがちで,経腸栄養管理中の低Na血症に対して食塩を付加されることが多いです.実際には推定平均必要量は男女共通で600 mg(食塩換算で1.5 g)とされているのに対し1),経腸栄養剤には100 kcalあたり,50〜240 mgであることから理論上は不足しないはずですが,加齢に伴う腎臓でのNa再吸収能の低下,脳血管疾患などの疾患,下痢や嘔吐,利尿剤の使用など,経腸栄養を行う患者の病態や使用薬剤に低Na血症をきたしやすい因子が多くあります.

表1:経腸栄養剤の分類:医薬品扱い経腸栄養剤と食品扱いの経腸栄養剤の違い

引用文献

  1. 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020 年版)

(2021/04/19公開)

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