春の研修医応援企画ドリル祭り2021

45歳女性.身長150 cm,体重55kg.既往歴は糖尿病(罹病期間15年程度).前日までは子どもと遊ぶなど,普段と変わりなく過ごしていた.入院当日の昼,昼寝から起きてこないことを不審に思った夫が呼びかけても反応しないことに気づき救急要請した.

来院時JCSⅡ-10,体温41 ℃,血圧60/45 mmHg,脈拍105回/分, SpO2 88%(room air),呼吸回数26回/分.結石性腎盂腎炎による敗血症性ショック・急性腎障害(AKI)の診断で入院加療となった.

尿管ステントの留置,抗菌薬投与,十分な輸液に加えて昇圧薬を使用し翌日にはショックから離脱できたが尿量は100〜200 mL/日と少なく,意識レベルもまだ改善していない(JCS Ⅱ-20).

血液検査所見:Cr 5.27 mg/dL,BUN 47.9 mg/dL,eGFR 7.8 mL/分/1.73 m2,K 3.4 mEq/L.

この患者さんに対する栄養療法として適切なものはどれか?
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解答

b:急性期に適した経腸栄養剤の経管投与を開始する

侵襲期の栄養療法

1)侵襲期の栄養療法の考え方

AKIは単独で発症することが少なく,多くは敗血症や脱水などのさまざまな重症な病態に伴って発症します.AKIに特異的な栄養療法は確立しておらず,原疾患や併存疾患に合わせた管理が必要です.またAKIではさまざまな理由によりPEWが引き起こされやすく,これが生命予後を悪化させると言われています1) (図2).基本的な考え方としては,侵襲期では異化(B)が亢進するため,タンパク質を投与する(I)ことで窒素出納がマイナスにならないようにすることです.もちろん原疾患(侵襲の原因)の治療が最優先されます.

図2:AKIにおけるPEWの要因

タンパク質の投与量にはさまざまな報告がありますが,タンパク質投与を制限すべきでないとする結果がほとんどです.実際の投与量としては欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)ガイドライン2)や実現可能性から,侵襲が強いときには1.5 g/kg IBW/日程度が妥当だと思われます.問題1のように腎不全に対してタンパク質制限を行うのはあくまでも腎保護のためであって救命のためではありません.血液浄化療法の開始を遅らせる目的で侵襲期に投与タンパク質量を制限してはいけません.生命予後改善のために十分なタンパク質を投与してください.

侵襲期には確実なタンパク質の投与を!

一方で侵襲期の投与エネルギーに関しては,高エネルギーの投与で窒素出納が改善されないことが報告されています2〜4).侵襲が強い初期はoverfeedingを避け,高タンパク質を投与(1.5 g/kg IBW/日)し,状態が改善すれば3〜7日以内に25 kcal/kg IBW/日を目標とする3)のが妥当と思われます.

2)侵襲期の栄養の投与経路

以前から重症患者における栄養療法として経腸栄養と静脈栄養の比較は数多く報告されています.両者における死亡率にほとんど差はありませんが,感染症合併率は経腸栄養で少ない3)と報告されており,消化管が使用可能であればより生理的である経腸栄養が選択されることが多くなっています(開始時期や持続投与・間欠投与の選択については基本編-6を参照).これはAKIのときでも同様に考えられています5)

投与経路として早期経腸栄養は大事ですが,原則として少量から開始します.経腸栄養だけで上記のような目標エネルギー量や目標タンパク質量を達成できない場合,静脈栄養を併用する場合があります.このようなとき,当施設では末梢挿入型中心静脈カテーテル(peripherally inserted central catheter:PICC)を使用することが多いです.通常の中心静脈カテーテル(central venous catheter:CVC)でもよいですが,PICCはCVCに比べて挿入時の気胸などの合併症が少なく,患者さんの抵抗感も少ないです.またエコーガイド下で挿入することで安全にベッドサイドでの挿入が可能です6).注意する点として,進行期CKDの患者では今後血液透析用のシャントを作成する腕が決められていることがあります.シャントを作成予定である患者の腕は血管の温存のためPICCは留置しないようにしましょう(末梢留置針も同様です).また透析用シャントを作成済みの患者においてもシャント肢に点滴ルートを留置しないようにしてください.もちろん生命予後の方が大事ですので他にルートが確保できなければその限りではありません.

PICCを使用する場合は透析用シャントを作成予定ではない腕を選ぶ
• 実際の処方例

問題3では前日まで食事ができており,消化管使用に際し問題がなかったため早期から経腸栄養を開始しました.そのため解答は「b:急性期に適した経腸栄養剤の経管投与を開始する」です.

また,この症例では目標のエネルギー 800 kcal,タンパク質 75 gとして次のような処方を行いました.

実際の処方例:
ペプタメン®インテンス 200 mL(100 kcal/100 mL, タンパク質 9.2 g/100 kcal) ×4袋

引用文献

  1. Fiaccadori E & Cremaschi E:Nutritional assessment and support in acute kidney injury. Curr Opin Crit Care, 15:474-480,2009
    ↑ AKI で PEW が起こりやすい理由
  2. Cano NJ, et al:ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: adult renal failure. Clin Nutr, 28:401-414, 2009
  3. Singer P, et al:ESPEN guideline on clinical nutrition in the intensive care unit. Clin Nutr, 38:48-79, 2019
  4. Fiaccadori E, et al:Effects of different energy intakes on nitrogen balance in patients with acute renal failure: a pilot study. Nephrol Dial Transplant, 20:1976-1980, 2005
    ↑タンパク質投与 1.5/kg に対して高エネルギーを投与した結果有害事象が増加した
  5. Doi K, et al:The Japanese Clinical Practice Guideline for acute kidney injury 2016. J Intensive Care, 6:48, 2018
    ↑急性腎障害診療ガイドライン 2016
  6. 瀬川裕佳,他:静脈穿刺からカテーテル先端位置確認までエコーを利用したベッドサイド PICC 挿入法の成績. 日本静脈経腸栄養学会雑誌,30:804-809,2015
    ↑ベッドサイドでの PICC 挿入方法

(2021/04/22公開)

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