黄疸,腰痛,腹部膨満感を訴える55歳女性1 既往歴 糖尿病 嗜好歴 喫煙:なし,飲酒:ビール1,000 mL/日(30年以上) アレルギー歴 なし 家族歴 なし 内服歴 ロキソプロフェン 現病歴 20年程前に肝機能障害の指摘をされたが,特に医療機関は受診していなかった.半年前から体重が減少傾向であった.また,1カ月ほど前から腰痛が出現したため,ロキソプロフェンを内服するようになったが,その後,黄疸と腹部膨満感が出現したため,当院の救急外来を受診しそのまま入院した. 入院時現症 身長 154 cm.体重 64 kg.体温 36.4℃.脈拍数 100回/分.血圧 107 mmHg.皮膚に黄染あり.眼瞼結膜に黄疸あり.頸部リンパ節は触知しない.肺音に異常はない.心音に異常はない.腹部は膨満,軟,圧痛はない.両下腿浮腫あり. ⓔ 非アルコール性脂肪肝炎 Q1…肝機能障害の原因として考えにくいのはどれか? ⓐ肝硬変 30年以上に渡って大量飲酒している. 現病歴から少なくとも20年前には肝機能障害が指摘されている.また,飲酒歴からも大量飲酒を長期間に渡って行っていることがわかっており,すでに肝硬変になっている可能性は十分にあると思われる. ⓑ原発性胆汁性胆管炎 中高年以上の女性の肝機能障害である. 中高年以上の女性の肝機能障害では自己免疫性肝疾患の原発性胆汁性胆管炎を必ず鑑別にあげる必要がある. 原発性胆汁性胆管炎を疑う場合には,血液検査項目としてBil,APLのほかにIgG,IgM,抗核抗体,抗ミトコンドリア抗体などの免疫系の項目も測定しておきたい. ⓒ肝細胞がん 以前にも肝機能障害を指摘されている.また,腰痛を訴えている. 肝硬変になっていたとすると本症例は肝細胞がんのハイリスク群である.また本症例の腰痛は骨痛の可能性がある.骨痛は肝細胞がんからの骨転移を疑わせる所見である. すでにALPが高値であることはわかっているが,本症例ではALPのアイソザイムを調べてALP3が上昇しているかを調べてみる価値はあるだろう. ⓓ薬剤性肝障害 ロキソプロフェンを内服している. 肝機能障害では常に薬剤性肝障害を念頭におく必要があるが,本症例では腰痛に対するロキソプロフェンの内服後に黄疸が出現しており,特に考慮しておく必要がある. 本症例ではまずはロキソプロフェンに対して薬剤リンパ球刺激試験(DLST)を行うことが望ましい. ⓔ非アルコール性脂肪肝炎 ビールを連日1,000 mL飲酒している. 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の診断においてはアルコール摂取歴を確認する必要がある. 純エタノールで1日あたり男性30 g以上,女性20 g以上の飲酒を毎日続けているとアルコール性肝障害(ALD)がおこると考えられる. 上述の基準量は例えばビールであれば男性だと750 mL,女性だと500 mLに相当する. (2021/04/26公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します 検査値ドリル基礎・応用問題から鍛える、診断につながるポイントを見抜く力 神田善伸/編 定価:4,730円(本体4,300円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内