症例:めまいを主訴に来院した72歳男性 患者: 72歳男性 主訴: めまい 現病歴: 本日起床時にめまいが出現した.症状が続くため,一般外来を受診した. 既往歴: 高血圧,脂質異常症 内服: アムロジピン10 mg/日, ピタバスタチン 2 mg/日 喫煙歴: タバコ20本×52年 飲酒歴: 機会飲酒 ⓑ めまいの誘因(Provocation),ⓔ めまいの持続時間(Time) 2. 問題2の解説:めまいでまずはじめに聴取すること プライマリ・ケアでめまいを訴える患者に出会ったとき,まずはじめに聴取することは①めまいの持続時間(Time)と②めまいの誘因(Provocation)の2点です1).この2つを優先して聴取する理由としては,めまいの高頻度疾患を切り分けるのに非常に効率的な質問事項だからです.ではこの2点がわかると,どのように切り分けられるか,表2を見ながら整理しましょう. 1めまいの持続時間 めまいは,1回の持続時間によって非常に効率よく疾患を絞り込むことができます.1回の持続時間が「短時間・間欠的(数分以内)」であれば,まずはBPPV,起立性低血圧,パニック障害などがあがります.また,頻度はそれほど高くありませんが,椎骨脳底動脈循環不全(vertebrobasilar insufficiency:VBI)やAdams-Stokes症候群も鑑別にあがります.また,近年注目されはじめた,持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural perceptual dizziness:PPPD)も,短時間のめまいとなります2).一方,1回の持続時間が「持続性(数時間以上)」であれば,前庭神経炎や脳血管障害,あるいはうつ病や不安障害などの精神疾患の可能性が高くなります. ここがピットフォール めまいの持続時間の聞き方に注意! BPPVの患者に「めまいはどれくらい続きますか」と聞くと,「朝起きたときからずっと続いている」と答える方がいます.これはBPPVが持続的なめまいということでもなく(通常数分以内),患者がウソを言っているわけでもありません.これは医師側の聞き方が曖昧であることから生じる「病歴のアソビ」と感じています.この場合,「朝からめまいは続いていると思いますが,1回の強いめまいはどれくらい続きますか?」,「安静にしていれば,その強いめまいはどれくらいで治りますか?」といったように,患者が自分自身に起こった症状の時期や期間をイメージしやすいように質問する必要があります. 2めまいの誘因 特に確認すべき誘因は,「起立時」,「寝返り・振り向く」,「なし」の3点です.この3点について以下に説明をします. 1)起立時 起立でめまいが誘発される場合は,第一に起立性低血圧を想起します.起立性低血圧の原因には循環血漿量の低下(脱水,消化管出血など),薬剤性(降圧薬や硝酸薬など),および自律神経障害(パーキンソン病,糖尿病性末梢神経障害など)があります.これらは,「立ち上がったときにめまいがする」という訴えになり,その情報があるかを確認します.しかしながら,ここで留意すべきは,立ち上がるという動作には,頭部への循環血漿量が一過性に低下するという作用に加え,頭の位置が変化するという要素があることです.すなわち,起立で誘発されたと訴えるめまいのなかに頭位変換によるものが含まれてしまっている可能性があるということです.そこで,これらを切り分けるために「寝返り・振り向く」という誘因を丁寧に確認する必要があります. 2)寝返り・振り向く 寝返り・振り向くという動作には,循環血漿量による変化が含まれていないため,純粋に病歴聴取で切り分けることができるメリットがあります.また,「寝返り」という情報には,単に振り向くという動作の情報だけではなく,「床についている状況」という付帯情報が含まれています.めまいの高頻度疾患であるBPPVの場合,しばらく同じ頭位を保った後に出現する場合が多く,特に起床時に出現しやすいため,この情報が有用です. 3)誘因なし また,めまいの誘因が「なし」という情報も鑑別疾患の切り分けに有用です.うつ病などの精神疾患の多くは誘因が不明確であり,一部の脳血管障害もめまいの誘因がないことがあります. ここがポイント めまいの性状はアテにならない? 学生や研修医に問題2を尋ねてみると,まずはじめに「めまいの性状」を確認すると答える人が多い印象です.めまいと聞いても,どんな症状なのか捉えがたいこともあり,それをイメージするためにもめまいの性状を確認したいのではないでしょうか.しかしながら,めまいを訴える872名を対象とした研究3)では, 62%は自身のめまいの性状を1つのタイプ(回転性めまい,浮動性めまい,平衡障害,前失神)に分類できない 52%は1回目と2回目の病歴聴取で性状が変化した という結果が出ています.めまいの性状は患者も適切に言語化できない場合もあるため,ここを切り口に鑑別を絞り込むのは難しいかもしれません.例外として,「目の前が真っ暗になった」などの前失神を示唆する症状があった場合は,失神の鑑別に切り替える必要があります. 引用文献 Edlow JA, et al:A New Diagnostic Approach to the Adult Patient with Acute Dizziness. J Emerg Med, 54: 469-483, 2018 Ishizuka K, et al:Clinical key features of persistent postural perceptual dizziness in general medicine outpatient setting_A case series study of 33 patients. Intern Med, 2020 Newman-Toker DE, et al:Imprecision in patient reports of dizziness symptom quality:a cross-sectional study conducted in an acute care setting. Mayo Clin Proc, 82:1329-1340, 2007 鋪野紀好:患者さんがイメージできるように導く技術.Gノート,7:714-718, 2020 (2021/05/10公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します レジデントノート増刊 Vol.23 No.2 症候診断ドリルエキスパートの診断戦略で解き明かす必ず押さえておきたい23症候 鋪野紀好/編 定価:5,170円(本体4,700円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内