頻尿を自覚し,排尿時痛を生じていた10歳代女性3 症例 10歳代後半の女性.2日前に頻尿を自覚し,昨日から排尿時痛を生じていたが,我慢していた.今朝になって急な悪寒戦慄があり,38.5℃に発熱していたため両親に連れられ救急外来を受診した.これまで既往歴はなく,アレルギー歴もない. 来院時の自覚症状は寒気のみであった.血圧128/72 mmHg,脈拍90回/分,呼吸数は20回/分,酸素投与なしでSpO2 97%であった.身体診察では左背部に叩打痛があるが,その他に異常所見はない.腎盂腎炎を疑い,尿培養および血液培養2セットを採取のうえ入院加療を行うことにした.あなたが入院担当となり救急外来に到着すると,すでに救急医がセフトリアキソンの点滴静注を開始していた. ※クリック/タップで拡大します ⓐ アンピシリンに変更する de-escalationにおける抗菌薬選択の原則 菌名が同定され薬剤感受性試験結果が判明したら,さらに狭域なスペクトラムの抗菌薬に変更(de-escalation)できるかどうか,必ず検討しましょう.de-escalationできる場合,「その感染症に治療実績のある抗菌薬のなかで」「より古典的な」「できる限り緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)をカバーしない」「できる限り嫌気性菌をカバーしない」抗菌薬を選択するとうまくいくことが多いと筆者は考えます. 1)キノロン系抗菌薬 腎盂腎炎に最も治療実績のある抗菌薬の1つはキノロン系抗菌薬です.しかし,腎盂腎炎を起こしやすい年代の若年女性で妊娠の有無が確認できていない場合には使いづらい薬剤です.さらに,緑膿菌をカバー「してしまって」いる点や,Escherichia coliのレボフロキサシン感受性が67%しかない1)(=3人に1人は耐性の可能性がある)点も懸念事項です.キノロン系抗菌薬は,それでしか治療できない症例のために温存しておきたいところです. 2)β-ラクタム系抗菌薬 一方,β-ラクタム系抗菌薬は比較的安全で,その点滴薬は腎盂腎炎の治療に長く用いられてきました.Escherichia coliがターゲットとなりうるβ-ラクタム系点滴抗菌薬の例を,より古典的な順になるようなイメージで並べたものが表11です.薬剤感受性試験結果をみながら,より古典的なものに感受性があれば,そのなかでできる限り古典的なものを選択しましょう. ただし,アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)とセファゾリン(CEZ)の両方ともに感受性があるEscherichia coliに対して,どちらの抗菌薬を選択するかは専門家によって見解の分かれるところでしょう.筆者は「できる限り嫌気性菌をカバーしない」という原則を優先してセファゾリンを選択することの方が多いです.嫌気性菌までカバーしてしまうと,腸内で最も多くを占める嫌気性菌がいなくなることにより腸内細菌叢が乱れ,下痢症状が出ることが多いためです. 引用文献 厚生労働省:公開情報 2019 年1⽉〜 12⽉ 年報(全集計対象医療機関:2038 施設)院内感染対策サーベイランス検査部⾨【外来検体】.データ集計⽇ 2020 年04 ⽉06⽇,公開情報掲載⽇ 2020 年06⽉26⽇ (2021/09/27公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します グラム染色診療ドリル 解いてわかる!菌推定のためのポイントと抗菌薬選択の根拠 林 俊誠/編 定価:3,960円(本体3,600円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内