62歳男性,歩行時胸痛を自覚した 62歳男性.10年以上前に心筋梗塞を発症,冠動脈インターベンション治療を受けている.2型糖尿病で近医加療中であった.夕方の散歩時に前胸部痛を自覚,症状は数分間で治まったため数日後当院外来を受診した.来院時の12誘導心電図を示す. A1.陳旧性下壁心筋梗塞A2.経胸壁心エコー検査,冠動脈CT検査または心筋シンチグラフィー検査 1.診断のポイント Ⅲ,aVF誘導の異常Q波(図▶︎)がみられ,Ⅱ誘導にはQ波がみられない(図▶). 2.心電図波形の所見 心電図では,ⅢとaVF誘導に異常Q波がみられる.過去に心筋梗塞(OMI)が左室下壁に発生したことが推測できる.一般に,典型的な下壁の陳旧性心筋梗塞(old myocardial infarction:OMI)では心電図でⅡ,Ⅲ,aVFに異常Q波がみられるが,本症例では,心筋梗塞の既往があるとのことで,Ⅱ誘導以外に明瞭な異常Q波があり(図▶︎),それ以外の誘導に心筋梗塞を疑わせる所見がないことより,下壁のOMIと考える.Q波の幅が0.04秒未満,深さがR波の25%以下のものは病的意義がないという意見もあるが,後述のごとく典型的なQ波が確認できなくても,OMIが実際存在している場合もあり,注意を要する. 3.鑑別診断 1 心筋症 強い心筋障害でも左室下壁領域を反映する心電図誘導に異常Q波が出現することがある. 2 水平位心 Ⅲ誘導のみでQ波がみられることがある.病的意義はないとされている. 3 心電図電極のつけ間違い 四肢誘導電極のつけ間違いでⅡ,Ⅲ,aVF誘導に異常Q波様波形がみられることがある. 4.次にどうするか 下壁OMIがあるとすれば,低下していると思われる左室壁運動の評価のため経胸壁心エコー検査(UCG)を行う.さらに,胸痛症状については,糖尿病もあり,新たな冠動脈病変による狭心症が原因である可能性も考えられる.循環器専門医に相談,冠動脈評価のための冠動脈CT検査や負荷心筋シンチグラフィー検査を考慮すべきである. 5.より深い話 胸部症状,心筋梗塞の既往がなくとも心電図で下壁領域に異常Q波ともとれる所見がみられることは少なくない.多くの場合はUCGで左室壁運動が正常であれば問題ないと考えるが,下壁心筋梗塞の規模が小さかった場合や,右冠動脈が閉塞していても左冠動脈から側副血行路を受けている場合は典型的心電図所見とならないこともある.高齢,冠危険因子,典型的かつ強い狭心症様症状などの要因しだいでは循環器専門医に相談,より詳しい冠動脈精査を考慮すべきである. (2020/3/19公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します レジデントノート増刊 Vol.21 No.2心電図診断ドリル波形のここに注目! 森田 宏/編 定価:4,700円+税 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内