春の研修医応援企画ドリル祭り2020

69歳男性,動悸と易疲労感を常に認めていた

69歳男性,動悸と易疲労感を常に認めていた

69歳男性,高血圧で内服加療中.3年前から動悸発作をときどき自覚していたが,最近は動悸と易疲労感を常に認めていた.肩関節を脱臼し,整形外科病院に入院したが,入院中の心拍数が持続的に高値のため,手術延期となり紹介受診した.

来院時,意識清明,身長169 cm,体重 60 kg,血圧116/87 mmHg,脈拍124回/分 不整

胸部:心雑音なし,Ⅲ音(+),肺野ラ音なし,下腿浮腫なし

胸部X線:心胸郭比 52.4%,左少量胸水(+),肺うっ血(±)

経胸壁心エコー検査:AoD 35 mm,LAD 49 mm,IVS 6 mm,PWT 7 mm,LVDd 48 mm,LVDs 36 mm,EF 48%,軽度のびまん性左室壁運動低下あり,有意な弁膜症なし

来院時の12誘導心電図を示す.

リズム異常の診断は何か?次に行うべき処置は何か?
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解答

A1.頻脈性心房細動
A2.レートコントロール治療,抗凝固療法

1.診断のポイント

図 本症例の着眼点

①RR間隔の絶対的不整

②P波がない.心房細動波の存在

2.心電図波形の所見

RR間隔の不整には規則性がなく,絶対的不整を呈している(irregularly irregular).また1心拍のみに着目すると一見P波様の波形を呈しているものもあるが,ほかの部分を確認すると再現性をもって同じ形を示すものはなく,これがP波ではなく細動波(f波)を表していることがわかる(図1).本例の心電図ではf波が明瞭だが(coarse AF),f波振幅が低い心房細動(fine AF)では,一見すると平坦な基線のように見えることがあり注意が必要である.

3.鑑別診断

1 頻発性心房期外収縮または多源性心房頻拍
図2 多源性心房頻拍の心電図

心房期外収縮が多発しているとRR間隔が不整となり,心房細動に見えることがある.P波の形が3種類以上ある場合は多源性心房頻拍と呼ばれる.加えて心電図の記録状態が悪いと,基線のアーチファクトがf波様に見え,心房細動と誤認する原因になるので注意が必要である.可能ならば12誘導心電図を記録して,P波の有無図2を確認することが心房細動との鑑別に大切である.

2 心房粗動
図3 不整なRR間隔を呈する心房粗動

心房粗動でも房室伝導比が不定だとRR間隔が不整となり,心房細動のように見える(図3).特に非通常型の心房粗動では,粗動波が鋸歯状にならないので見落としやすい.鑑別の基本は12誘導心電図を記録し,粗動波の有無を確認することである.

4.次にどうするか

本例は頻脈性心房細動にうっ血性心不全を伴っており,最初の治療は心房細動のレートコントロールである.以前はジゴキシンが第一選択だったが,労作時など交感神経緊張時のレートコントロール作用が弱く,現在はβ遮断薬が第一選択である.

●処方例

ビソプロロール(メインテート®)1.25〜5 mg 1日1回 朝

喘息などでβ遮断薬が使用できないときは,ベラパミルやジルチアゼムもレートコントロールに有効だが,心機能抑制作用が特に前者で強いので,心機能低下例では注意が必要である.レートコントロールが不十分なときは,上記薬剤の併用投与を行うが,難治例で特に重度心機能低下例ではレートコントロール目的でアミオダロン(アンカロン®錠)を使用する場合もある.また血栓塞栓症予防のための抗凝固療法も必須である.早急なコントロールが必要な場合は,経食道エコーで血栓有無を確認のうえ,電気的除細動も考慮される.本例でみられた左心機能障害はびまん性の壁運動低下で,虚血などほかに心機能低下をきたす原因がなく,頻脈持続に伴うものが疑われた(頻脈誘発性心筋症).本例はレートコントロールを行って心不全が改善した後に,カテーテルアブレーションを行い洞調律となった.術後,症状は消失し,左心機能も正常化した.

5.より深い話

心房細動のレートコントロールにおける心拍数の目標値はいくつだろうか? 以前は安静時80回/分未満など,より厳格なコントロールが求められていたが,RACE Ⅱ試験では安静時110回/分未満の緩徐なコントロール群の臨床転帰は厳格コントロール群と同程度だった1).しかしRACE Ⅱ試験では緩徐コントロール群も観察期間中は90回/分未満となっており,安静時心拍数の目標値としては,100回/分未満程度をめざすのが妥当と思われる.注意すべきこととして,心拍数は労作時と安静時では異なるため,患者の活動度が高いと安静時心拍数の評価のみでは不十分となるし,また基礎心疾患,高血圧などの併存疾患の有無で心機能悪化の閾値は異なってくる.そのため目標心拍数は患者ごとに設定すべきで,症状や心機能の経過次第で,緩徐なコントロールで留めるか,より厳格にコントロールするかを決定するのがよい.また心不全患者ではレートコントロールを行うよりも,アブレーションでリズムコントロールを行った方が心機能をより改善し,予後も良好であることがCASTLE-AF試験により示された2).したがってアブレーションにより洞調律維持が期待できる心不全患者では,本例のように積極的にアブレーションを検討すべきである.

文献・参考文献

  • Van Gelder IC, et al:Lenient versus strict rate control in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 362:1363-1373, 2010
  • Marrouche NF, et al:Catheter Ablation for Atrial Fibrillation with Heart Failure. N Engl J Med, 378:417-427, 2018

(2020/3/23公開)

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