診療で役立つコミュニケーション入門

沢村敏郎/著

犬と人間はコミュニケーションすることができるでしょうか?

私の病院の研修医にこの質問をすると,約半数の研修医は犬と人ではコミュニケーションすることは難しいと答えました.しかし残りの半数はコミュニケーションできると断言しました.この違いはどこにあるのでしょうか?

コミュニケーションができると答えた研修医は,犬を飼った経験があり,実際に犬とコミュニケーションができたからです.つまり,犬に愛情をもって接しているうちに,コミュニケーションスキルを身につけていたのです.

ノーと答えた研修医は,犬が嫌いか飼ったことがありませんでした.つまり犬が嫌いか,飼ったことがないと,犬とコミュニケーションをする機会がないので,人と犬はコミュニケーションできないと思っています.そしてコミュニケーションにはスキルが必要であることに考えが及ばないのです.

これは人同士のコミュニケーションにもあてはまります.人が嫌いで人とつき合うことの少ない性格であれば頭脳が明晰であっても,コミュニケーションを上手にできません.

人間が好きであっても,限られた人としか付き合いのない人は,その小さいグループ内ではコミュニケーションは上手かもしれません.しかし,医療という不特定多数の人を相手にする,特殊な環境下でうまくコミュニケーションできるでしょうか?

また,コミュニケーションスキルは個人の素養に起因し,どうしようもないと考えている方も少なくありません.本当にそうでしょうか? 安易に諦めていませんか?

現実にはコミュニケーションのスキルはトレーニングで上達させることが可能です.そして医療者にとって必要なコミュニケーションスキルは,意外と多くありません.しかしコミュニケーションスキルについての専門書は,難しい内容のため(私自身)理解しがたいだけでなく,その哲学的な知識が日常診療に役立ったこともありません.私は心理学者でもコミュニケーションスキルの専門家でもありません.どちらかと言えばコミュニケーション下手な,手術一途の臨床の外科医です.この短期連載では,実際の臨床経験から会得した,解りやすく,役立つコミュニケーションスキルを紹介したいと思います.

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