画像診断Q&A

レジデントノート 2012年3月号掲載
【解答・解説】本当に咽後膿瘍ですか?急性項頸部痛をきたす鑑別疾患のひとつです

Answer

石灰沈着性頸長筋腱炎

  • A1:頸椎単純X線写真側面像にて咽頭後壁・頸椎前面の軟部組織腫脹あり,第2頸椎前方に淡い石灰化が認められる(図1).石灰化は頸椎CT再構成縦断像でさらに明瞭に描出されている(図4).頸長筋腱付着部に一致した石灰化像であり,石灰沈着性頸長筋腱炎と診断可能である.MRIでは第1から第2頸椎前面の頸長筋頸椎付着部は腫大しており,その前方に液体貯留と思われる上下に連続する高信号域をT2強調像にて認める(図2).椎前間隙-咽頭後隙への炎症の波及を示唆する.
  • A2:本疾患は1~2週間で自然寛解する.その間,NSAID投与および頸部固定による局所安静などの保存的治療が選択される.

解説

石灰沈着性頸長筋腱炎について,好発年齢は20~50歳で,急性の項頸部痛,頸部運動制限,嚥下痛などを主訴とし発症する.通常,血液炎症所見の陽性化を認め,咽後膿瘍や化膿性脊椎炎などとの鑑別が臨床上問題となる疾患である.

発症機序は以下のように考えられている.まず,頸長筋腱の乏血・過使用による組織の変性により同部へ石灰の沈着が起きる.その被膜が破綻して周辺組織への石灰細粒の播種・沈着が起こると,それらが吸収される過程で炎症が惹起され疼痛や軟部組織の腫脹を引き起こす.引き金は何であれ,頸長筋にカルシウム結晶が沈着することが有痛性の炎症反応の原因である.石灰化の主成分はハイドロキシアパタイトといわれている.頸長筋は前椎骨筋を構成する4つの筋のうちの1つであり,4筋とも第1頸椎から第3胸椎の前方の椎前間隙内に存在する.咽頭後隙とは深頸筋膜によって隔てられているのみであり,炎症は容易に咽頭後隙に波及し,液体貯留を伴い咽後膿瘍と誤診されがちである.

頸椎単純X線写真側面像にて第1から第2頸椎前面の頸長筋腱付着部に石灰化像が見られる(図1).CTで石灰化はさらに明瞭に描出され(図4),単純X線写真で不明瞭な場合に有用である.MRIは脊椎炎疑診で施行されることが多く,椎前間隙-咽頭後隙の腫脹や浮腫,同領域の頭尾方向に広がる液体貯留(典型的には第1から第4頸椎,第6頸椎のレベルにまで達することもある)などの所見が認められ(図2),本疾患の診断の契機となる.

本疾患は通常1~2週間の経過で自然寛解し,NSAID内服および頸部固定による局所安静によって症状は軽減される.嚥下障害や呼吸困難を伴うような重症例ではステロイドの短期投与も選択される.

図1 頸椎単純X線写真側面像 図2 頸椎MRI T2強調像 図4 頸椎CT再構成縦断像

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<症例のポイント>

石灰沈着性頸長筋腱炎は比較的稀ではあるが,急性項頸部痛の鑑別疾患として念頭においておかなければならない疾患の1つである.特に咽後膿瘍との鑑別が重要で,CTや単純X線写真により軸椎前方の石灰化を見逃さないようにしなければならない.本疾患は通常1~2週間の経過で自然寛解し,NSAID内服および頸部固定による局所安静による保存的治療が原則である

さて,諸先輩の言によれば,鑑別診断で落としてはならないカテゴリーが3つあるといいます.① 頻度の高い疾患,② 見逃すと予後や治療方針に大きく影響のある臨床的に重要な疾患(肺塞栓や大動脈解離,腸管穿孔など),③ 稀でも特異的な症状,所見を呈する疾患,以上の3つです.1年間このコーナーを担当しましたが,そのなかで私は意識的に3番目の“稀でも特異的な症状,所見を呈する疾患”を多くとりあげてきました(例えば,今回の石灰沈着性頸長筋腱炎や2011年7月号の抗NMDA受容体脳炎など).これらは画像所見が特異的で臨床情報を加味すれば確定診断に至ることが可能な疾患です.これらの症例が君たちの記憶に残っていて,臨床の現場で遭遇した際に見事診断を的中させることができたならば,周囲の君たちを見る目が変わってくるでしょう.私の喜びはこれに過ぐるものはありません.

〔 2008年度当院放射線科研修医 長田陽一先生作成ティーチングファイルを改変しました〕

プロフィール

松岡 陽治郎(Yohjiro Matsuoka)
国立病院機構長崎医療センター放射線科
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