本症例は,急性鳥関連過敏性肺炎 (急性型鳥飼病) の一例である.感染症としては経過が緩慢であること,両肺に広範なすりガラス陰影を認めることから過敏性肺炎を疑い,居住環境・職業歴・鳥飼育歴などにつき詳細な病歴聴取を行うことが診断のカギとなる.
過敏性肺炎は真菌胞子,異種タンパクなどの有機じん埃を反復吸入することにより感作されて起こるアレルギー性肺炎である.本邦では夏型過敏性肺炎 (以下 「夏型」) が最も頻度が高く,過敏性肺炎患者の70~80%を占めるとされるが,近年住宅環境の改善もあってか 「夏型」 は減少傾向にあると思われる.
その一方で鳥関連過敏性肺炎 (鳥飼病) は増加傾向にある.急性型と慢性型があり,慢性型では発熱や炎症反応高値などの急性期所見が乏しい.
発症環境としては,鳩やインコの飼育歴が重要であるが,羽毛布団使用による発症や,隣家の鳩飼育による発症報告もある.したがって,患者本人の鳥飼育歴や羽毛布団使用歴だけでなく,自宅周囲の環境も含めた病歴聴取が重要である.検査所見としては,気管支鏡検査,気管支肺胞洗浄 (bronchoalveolar lavage:BAL) にてリンパ球主体の細胞増多,経気管支肺生検 (transbronchial lung biopsy:TBLB) にてリンパ球浸潤を伴う胞隔炎と類上皮細胞肉芽腫を認める.免疫学的検査として抗インコ糞抗体価測定,末梢血の鳩血清によるリンパ球増殖試験がある.これら免疫学的検査は,従来研究機関でのみ施行可能であったが,抗体価測定に関しては近年商業検査機関でキットを用いた測定が可能となっている (商品名:ImmunoCAP® Specific IgG).ただし2012年8月現在保険適用外である.画像所見は,急性型では広範な小葉中心性の粒状影 (図2→) や汎小葉性のすりガラス陰影 (図2→)を呈し,これは「夏型」と同様の所見である.本症例の胸部CTの別のスライスでは,小葉中心性の粒状影を認めた (図3→).一方慢性型では蜂巣肺パターンを呈し,特発性間質性肺炎との鑑別が問題となる.
本症例では,築30年の日本家屋で日照不良と 「夏型」 を疑う居住環境であったが,抗Trichosporon抗体は陰性,BALにて細胞数5.0×105/mL (Ly 93%) とリンパ球主体の細胞増多,CD4/8比5.14と上昇がみられ (「夏型」 では低下する),TBLBにて類上皮細胞肉芽腫を認め,抗インコ糞抗体陽性,リンパ球増殖試験陽性より,急性鳥関連過敏性肺炎と診断した.短期間のステロイド治療で改善が得られ,インコは知人に譲り,住居の徹底的な清掃を施行し,その後の再発はみられていない.
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