A1:胸部単純CTで大動脈遠位弓部から胸部下行大動脈にかけて壁の三日月状の高吸収域を認める(図1→).造影CTでは,明らかな増強効果はなく(図2→),大動脈壁内に生じた血腫または早期の血栓と考え,血栓閉塞型の大動脈解離と診断した.
早期血栓閉塞型大動脈解離とは,解離腔が早期に閉塞する大動脈解離で,大動脈解離の26~46%を占めるとされている.発症機序に関しての見解は統一されておらず,2説あり,① 最初に内膜亀裂が生じることにより解離が進行するが,何らかの理由で早期に血栓閉塞するという説,② vasa vasorum(脈管の脈管)の破綻から中膜に血腫を形成した後,2次的に内膜亀裂が生じるという説がある.
画像所見としては,単純CTにて新鮮な解離腔内血栓・血腫が三日月型高吸収域(hyperdense crescent sign,図1→)として描出される.最初に造影CTを撮影すると,本来高吸収に見える血管壁は血管内の高吸収に隠れてしまい,単なる壁肥厚,大動脈壁の古い血栓と区別がつかない(図2→).新鮮な血腫や血栓は,血餅成分が固まって比重が高くなるにつれて高吸収になり,タンパク成分の融解吸収とともに濃度低下がはじまり,再び血液と同程度の濃度になる.
早期血栓閉塞型大動脈解離では再解離が8~33%にみられ,ULP※を認める例で起きやすいとされている.解離腔の血栓が器質化するまでは,解離腔全長にわたり再解離の可能性を考慮することが必要である.
Stanford A型で,大動脈閉鎖不全症の例,心タンポナーデ合併例,上行大動脈にULPを認める例,大動脈径が50 mm以上あるいは血腫の径が11 mm以上の例では高危険群と考えられ手術を考慮する.その他の例では内科的治療が可能と思われるが,厳重な経過観察が必要である.
※ULP(ulcer-like projection):真腔から血栓で閉塞した解離腔への潰瘍状突出
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多くの大動脈疾患の診断には造影CTが用いられるが,本疾患においては造影CTのみでは診断が困難である場合が多い.大動脈解離を疑った場合は,単純CTと造影CTの両者を施行し,hyperdense crescent signを見逃さないようにすることが必要である.