画像診断Q&A

レジデントノート 2013年8月号掲載
【解答・解説】右下腹部痛.何を考えますか?

Answer

腹直筋鞘血腫

  • A1:腹直筋鞘血腫(rectus sheath hematoma)

    単純CTで,腹直筋下部の後方に接して内部高吸収な腫瘤を認める (図1).造影CTでは腫瘤の内部は造影効果に乏しく (図23),血腫と考えられる.すなわち腹直筋鞘血腫の所見である.なお,腫瘤の辺縁は相対的に低吸収になっており,血腫が吸収されつつあるものと考えられる.

  • A2:保存療法

    腹直筋鞘血腫は多くの場合,保存療法で軽快する.

解説

腹直筋鞘血腫は上・下腹壁動静脈の破綻により生じる腹壁の血腫である.稀な疾患ではあるが,強い腹痛を呈することから,虫垂炎や卵巣嚢腫茎捻転やヘルニアなどのその他の急性腹症としばしば誤診される.かつては開腹術が施行されてはじめて本症と診断されることも多かった.

身体所見としては,Fothergill徴候(腫瘤が正中線を越えず,腹直筋を緊張させた状態でも腫瘤を触れる)が知られているが,必ずしも陽性にはならず身体所見のみでの診断は困難である.出血が広がればCullen徴候(臍部の皮膚着色)やGrey Turner徴候(側腹部の皮膚着色)をきたすこともある.

腹部超音波検査は非特異的とされるが,CTでは腹直筋鞘内の造影効果の乏しい高吸収腫瘤,隣接する腹壁の腫大として描出されるため診断の決め手となる.

腹直筋鞘血腫は特に誘因なく生じる特発性のものもあるが,外傷(腹部手術を含む),くしゃみ,持続する咳嗽によるものや,抗凝固療法,運動,高血圧,妊娠,白血病などさまざまな原因により生じる.

治療は多くの場合,保存療法が選択される.腹直筋鞘は尾側1/4(弓状線よりも尾側)では後葉を欠き,直接横筋筋膜(transversalis fascia)に接している.このため同部の病変では出血が広がりやすいとされ,注意が必要とされる(もっとも,多くの場合弓状線よりも下方で血腫を形成するのだが).大量出血のため循環動態のコントロールがつかない場合には凝固因子の補充や輸血,血管内治療や外科的手術が必要になることもある.

図1 腹部単純CT
図2 造影CT
図3 造影CT矢状断

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<症例のポイント>

腹直筋鞘血腫は臨床経過や身体所見から診断することは難しいが,CTでは特徴的な所見を呈するため診断に苦慮することは少ない.稀な疾患ではあるが,出血素因がある患者では致命的になりうる病態であり,急性腹症の診療の際に念頭におきたい.

プロフィール

田村 謙太郎(Kentaro Tamura)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
陣崎 雅弘(Masahiro Jinzaki)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
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