静脈硬化性大腸炎は,静脈硬化症に起因した還流異常による稀な虚血性大腸炎である.1991年に小山ら1)によってはじめて報告され,1993年に岩下ら2)が“腸間膜静脈硬化症”として,通常の虚血性腸炎とは独立した疾患概念として提唱,病理学的詳細を報告した疾患概念である.以来本邦では百数十例の症例報告がされているが,欧米ではほとんど症例報告がされていない.
静脈硬化の成因はいまだ明らかになっていないが,一部の漢方薬(加味逍遙散,黄連解毒湯,辛夷清肺湯)の長期服用例での報告が多数あることから,2013年8月にこれらの3剤について添付文書の改訂が行われ,静脈硬化性大腸炎をきたす副作用について注意が喚起された.成因としては漢方薬のほか,門脈圧亢進や膠原病に伴う血管炎,静脈炎などが疑われている.
静脈硬化性大腸炎の症状は主に腹痛,下痢,嘔気・嘔吐などのイレウス症状であるが,無症状のこともある.主に回盲部から横行結腸までが侵され,CTやX線で右側結腸領域に多数の線状・網目状の石灰化がみられることが特徴である.大腸内視鏡所見では,粘膜面は暗紫色,暗黒色などの特徴的な色調を呈し,腸管浮腫によりハウストラの腫大や不明瞭化を認める.さらにびらんや潰瘍を合併したり, 腸管の変形や狭小化を伴う場合もある3).
現在,明確な治療法は確立されていない.通常保存的な治療が選択され,抗凝固薬の投与や乳酸菌製剤などの整腸剤の投与が行われる.漢方薬服用症例では当該薬の休薬により症状の改善を認めた例が報告されている.くり返すイレウス症状など内科的な治療が無効と考えられた症例では結腸切除が行われる.
静脈硬化性大腸炎はそれ自体が生命予後に強い影響を与える疾患ではないが,患者のQOLを大きく損なう疾患である.
X線やCT,内視鏡で特徴的な所見を呈することから,慢性的な腹痛を訴える患者の診療において念頭におきたい.
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