鎌状赤血球症は,ヘモグロビンβ鎖の遺伝子異常によって引き起こされる赤血球異常である.鎌状赤血球は熱帯熱マラリアの増殖を抑えることから,鎌状赤血球症の保因者はアフリカ・中東・地中海沿岸・インドなどマラリアが蔓延している地域の人々に多い.また,かつて奴隷としてアフリカから移住した人々の子孫が北・中米や南米の一部に分布している1).
鎌状赤血球症では鎌状になった赤血球(図3)が,小血管で破壊される,あるいは小血管を閉塞させることによって,溶血性貧血や全身の塞栓症状が惹き起こされる.塞栓症状としては慢性脾梗塞による機能性無脾症(5 歳までに94%),骨梗塞・骨壊死(10~50%),疼痛発作(70%),脂肪塞栓や肋骨梗塞,肺高血圧などによる急性胸部症候群(40%),脳梗塞(25%,図4),持続勃起症(10~40%),腎障害(5~20%),肝障害(<2%)などがある.機能性無脾症による感染症も臨床的問題になることが多く,肺炎球菌やサルモネラ菌など莢膜を有する細菌感染症に罹患しやすくなる2).本症例も4回の肺炎既往があり,機能性無脾症によるものと考えられる.また,網膜の微小血管の閉塞により,網膜症を発症することがある.
鎌状赤血球症の画像診断では慢性脾梗塞の所見が特徴的である.脾臓は初期には腫大するが,徐々に萎縮する.萎縮した脾臓は梗塞や溶血によるカルシウム・ヘモジデリンの沈着により,高吸収になる1,3).
骨壊死は大腿骨以外にも本症例のように荷重のかからない上腕骨などにも起こることが通常とは異なり,特徴的である.また,慢性的な骨梗塞により,びまん性に骨硬化が認められる1,3).
溶血性貧血のある患者で脾臓の萎縮・石灰化,骨梗塞・骨壊死の所見をみた場合には鎌状赤血球症を疑い,出身地や既往歴を確認するとよい.
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