病原性大腸菌O-157による腸管出血性大腸炎はVero毒素の産生によって引き起こされ,腹痛,下痢,血便を呈する疾患である.稀に,溶血性尿毒症症候群や血栓性血小板減少性紫斑病,急性脳症を合併し,場合によっては重症となることがある.
特徴的なCT画像所見としては,三層構造を呈する右側結腸(盲腸・上行・横行結腸)優位の著明な壁肥厚があげられる.一般的に,診断は便中Vero毒素,便培養によって行われるが,時間がかかるので,CT画像所見により早期に疑うことができれば,診断・治療に役立つ1).
腸管の三層構造は炎症や虚血で認められる所見である.通常,腸管壁の構造は識別困難であるが,炎症や虚血で粘膜下層が浮腫になると,造影効果の強い粘膜と筋層・漿膜下層の一部に挟まれた三層構造が明瞭となる.一方で結腸癌では三層構造が破壊されるので,炎症・虚血と腫瘍性病変との鑑別に有用である2).
病原性大腸菌O-157の病変が右側結腸に限局するのは,細菌の外膜タンパクの構造によるものと考えられている.また,上行結腸では逆蠕動により内容物の停滞時間が長く,外来細菌が定着しやすい環境にあることもその一因3)と言われている.
右側結腸優位の腸炎の鑑別としては,カンピロバクター,サルモネラ,エルシニア,MRSA(methicillin-resistant Staphylo coccus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)腸炎などがあげられる.カンピロバクターは右側結腸に加えて,小腸に炎症が強いことが特徴的で,MRSA腸炎も小腸の壁肥厚が目立つ傾向にある4).病原性大腸菌O-157ではほかの細菌感染症と比べて有意に右側結腸壁肥厚を認め,20mmを超える腸管壁肥厚はO-157のみであったとの報告5)があり,ほかの感染症との鑑別に有用であると考えられる.
対照的に左側結腸(下行結腸・S状結腸・直腸)優位の腸炎としては虚血性腸炎,偽膜性腸炎がある.偽膜性腸炎は左側結腸の著明な壁肥厚が主体で,高齢者に多い.右側結腸に起きた場合は,画像上の鑑別は困難であり,抗菌薬使用歴の病歴が重要となる6).
このように,腸炎の画像診断では病変の分布からある程度,原因を推定することができ,特に右側結腸優位に三層構造を呈する著明な壁肥厚を認める場合には,病原性大腸菌O-157の可能性を考慮することが重要である.
クリックして拡大