画像診断Q&A

レジデントノート 2015年6月号掲載
【解答・解説】呼吸苦を主訴とした30歳代男性

Answer

非心原性肺水腫を呈したポリマーヒューム熱の1例

  • A1:両側の上中肺野に広範なすりガラス陰影が認められる(図1).胸部CT 像でも,肺末梢がスペアされたすりガラス陰影がみられる(図2).
  • A2:テフロン®(ポリテトラフルオロエチレン)など,フッ素樹脂の熱分解産物(ポリマーヒューム)を吸入することにより肺障害を引き起こすことが知られている.
  • A3:基本的に無治療あるいは酸素投与などの対症療法のみである.ステロイド,利尿薬,抗菌薬投与などを行うこともある.

解説

テフロン®は,耐熱性,非粘着性,耐化学薬品,低摩擦性,電気的絶縁性など多数の優れた特性を有し,工業用途からフライパンなどの調理器具のコーティング,ホース,粘着テープなど日常用品まで万能樹脂としてきわめて広範囲な用途に使用されている.しかし,テフロン®は通常の使用では安定しているが,不適切な過熱で生じた熱分解産物(ポリマーヒューム)を吸入することにより,ポリマーヒューム熱を起こすことが知られている.

ポリマーヒューム熱は,ポリマーヒューム吸入直後より眼痛,咽頭痛,咳嗽が始まり,数時間後本症の臨床的特徴とされている発熱,頭痛,筋肉痛などインフルエンザ様の症状が出現する.重症例では急性肺障害をきたし,頻脈,呼吸苦など呼吸不全の症状が加わる.軽症例では胸部X線像で異常を認めず,発症後数日で自然軽快することが多い.一方,重症例では非心原性肺水腫を呈し,肺両側のびまん性陰影を認め,急性呼吸不全から死の転帰に至った例も報告されている1)

本疾患の診断は,ポリマーヒュームの曝露歴と臨床症状によってなされる.臨床症状だけではインフルエンザなどの感染症や,ポリマーヒューム以外の原因による肺水腫,間質性肺炎に誤診される可能性があり,詳細な病歴聴取が重要な診断の手掛かりとなる.診断のための検査法として,尿中フッ素化合物の測定が試みられているが,フッ素化合物の経口摂取の影響を受ける.亜急性や慢性のポリマーヒューム曝露の診断には有用であるものの,本症例のような急性曝露例には有用でない.

本症例は入院時の心臓超音波検査で心機能が正常であり,BNP(brain natriuretic peptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)が正常であったことから,心原性肺水腫は否定的であった.病歴から入院時よりポリマーヒューム熱を疑い,酸素投与のみで経過観察した.入院時に聴取されたwheezeは徐々に改善し,第10病日には自覚症状がなくなった.胸部X線像,動脈血液ガスも正常となり軽快退院した.

図1 来院時胸部X線像
図2 来院時胸部CT像

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文献

  1. Lee CH, et al:Fatal acute pulmonary oedema after inhalation of fumes from polytetrafluoroethylene(PTFE).Eur Respir J, 10:1408-1411, 1997

プロフィール

芳賀 高浩(Takahiro Haga)
日産厚生会玉川病院 呼吸器科
山口 哲生(Tetsuo Yamaguchi)
JR東京総合病院 呼吸器内科
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