ポータブル撮影装置で撮影された画像なので断言はできませんが,心拡大があるようです.心疾患を疑い,胸痛の有無などを確認しつつ,心電図・心臓超音波検査を行います.
急性肺血栓塞栓症(以下PE)の症例である.突然の呼吸困難があり,胸部単純X線写真で肺野に明らかな異常はなく,呼吸音正常,呼吸数24回/分と頻呼吸であり,なおかつSpO2は94%と低下していることから本症を第一に疑う.
PEは,主に下肢や骨盤腔の深部静脈血栓症(以下DVT)が原因で発症する.DVTの発症リスクとして,血流停滞(長期臥床,肥満,妊娠など),血管内皮障害(手術,外傷など),血液凝固能亢進(悪性腫瘍,経口避妊薬服用など)があげられる.これらの発症リスクを有し,突然の呼吸困難および胸痛があり,胸部単純X線写真で肺野に異常を認めない場合に本症を疑う.教科書に記載がある肺梗塞の画像所見,Hampton’s hump(末梢へと広がる楔状浸潤影)やWestermark’s徴候(肺血管影の減少による限局性透過性亢進)は,特異度は高いが実際の頻度は稀である.心電図では,頻拍を認め,約7割の症例で非特異的なST-T変化を認める(V1-2でST-T変化を認めることが多い).S1Q3T3パターンの所見(Ⅰ誘導のS波とⅢ誘導の異常Q波と陰性T波)は比較的稀である.血清のDダイマー値の上昇は感度が高い(98%)が特異度は低く(40%),PEの除外には有用である.確定診断は肺動脈造影CTで行う.
本症例の胸部単純X線写真では,肺野に明らかな異常は認めず,軽度の心拡大が疑われた(図1).突然の呼吸困難に加え,胸痛はないが頻呼吸と酸素飽和度の低下があり,心音でⅡpの亢進を認めたため,PEを疑い初期診療を進めた.追加情報として1週間前より右ふくらはぎの軽い痛みの自覚,月経困難症にて経口避妊薬の服用歴がわかり,下肢の腫脹や発赤はないものの右腓腹筋の把握痛があり,DVTの存在も疑われた.動脈血液ガス分析ではPaO2 82 Torr・PaCO2 28 Torrと過換気を伴う低酸素血症を,心電図ではV1-2でST-T変化,S1Q3T3パターンを認めた.Wellsスコア(表)は6点であり,PEを強く疑いさらに評価を進めた.心臓超音波検査では左室への圧排を伴う右心系の拡大があり,Dダイマー8.7 μg/mLと高値であった.胸部造影CTでは両側肺動脈内に血栓を認め(図2),PEの診断確定に至った.なお,右ヒラメ筋静脈~右膝窩静脈にDVTも認めた.治療として未分化ヘパリン持続投与に引き続き,経口抗凝固薬のエドキサバンを開始し,順調に改善が得られた.