画像診断Q&A

レジデントノート 2017年11月号掲載
【解答・解説】突然の呼吸困難で受診した30歳代女性

ある1年目の研修医の診断

ポータブル撮影装置で撮影された画像なので断言はできませんが,心拡大があるようです.心疾患を疑い,胸痛の有無などを確認しつつ,心電図・心臓超音波検査を行います.

Answer

急性肺血栓塞栓症

  • A1 :肺野に明らかな異常は認めない.軽度の心拡大が疑われる.
  • A2 :急性肺血栓塞栓症(acute pulmonary embolism:PE)を考え,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の発症リスクの確認,下肢の腫脹などDVTを疑う身体所見の診察を行う.Dダイマーを測定,心電図・心臓超音波検査を施行し,胸部造影CT検査施行も考慮する.

解説

急性肺血栓塞栓症(以下PE)の症例である.突然の呼吸困難があり,胸部単純X線写真で肺野に明らかな異常はなく,呼吸音正常,呼吸数24回/分と頻呼吸であり,なおかつSpO2は94%と低下していることから本症を第一に疑う.

PEは,主に下肢や骨盤腔の深部静脈血栓症(以下DVT)が原因で発症する.DVTの発症リスクとして,血流停滞(長期臥床,肥満,妊娠など),血管内皮障害(手術,外傷など),血液凝固能亢進(悪性腫瘍,経口避妊薬服用など)があげられる.これらの発症リスクを有し,突然の呼吸困難および胸痛があり,胸部単純X線写真で肺野に異常を認めない場合に本症を疑う.教科書に記載がある肺梗塞の画像所見,Hampton’s hump(末梢へと広がる楔状浸潤影)やWestermark’s徴候(肺血管影の減少による限局性透過性亢進)は,特異度は高いが実際の頻度は稀である.心電図では,頻拍を認め,約7割の症例で非特異的なST-T変化を認める(V1-2でST-T変化を認めることが多い).S1Q3T3パターンの所見(Ⅰ誘導のS波とⅢ誘導の異常Q波と陰性T波)は比較的稀である.血清のDダイマー値の上昇は感度が高い(98%)が特異度は低く(40%),PEの除外には有用である.確定診断は肺動脈造影CTで行う.

本症例の胸部単純X線写真では,肺野に明らかな異常は認めず,軽度の心拡大が疑われた(図1).突然の呼吸困難に加え,胸痛はないが頻呼吸と酸素飽和度の低下があり,心音でⅡpの亢進を認めたため,PEを疑い初期診療を進めた.追加情報として1週間前より右ふくらはぎの軽い痛みの自覚,月経困難症にて経口避妊薬の服用歴がわかり,下肢の腫脹や発赤はないものの右腓腹筋の把握痛があり,DVTの存在も疑われた.動脈血液ガス分析ではPaO2 82 Torr・PaCO2 28 Torrと過換気を伴う低酸素血症を,心電図ではV1-2でST-T変化,S1Q3T3パターンを認めた.Wellsスコア()は6点であり,PEを強く疑いさらに評価を進めた.心臓超音波検査では左室への圧排を伴う右心系の拡大があり,Dダイマー8.7 μg/mLと高値であった.胸部造影CTでは両側肺動脈内に血栓を認め(図2),PEの診断確定に至った.なお,右ヒラメ筋静脈~右膝窩静脈にDVTも認めた.治療として未分化ヘパリン持続投与に引き続き,経口抗凝固薬のエドキサバンを開始し,順調に改善が得られた.

図1
図2
表 Wellsスコア(PE)
Wells PS,et al:Derivation of a simple clinical model to categorize patients probability of pulmonary embolism:increasing the models utility with the SimpliRED D-dimer.Thromb Haemost,83:416-420,2000 より.
項目点数
臨床的にDVTの症状を認める+3
PEの診断が鑑別疾患のなかで一番もっともらしい(ほかの鑑別疾患を認めない)+3
以前にPEかDVTの既往がある+1.5
心拍数>100回/分+1.5
最近の手術または長期臥床+1.5
血痰・喀血を認める+1
担癌状態である+1
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プロフィール

笠井昭吾(Shogo Kasai)
東京山手メディカルセンター 総合内科,地域診療・救急部門
徳田 均(Hitoshi Tokuda)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
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