意識障害をきたした患者では,急性薬物中毒の鑑別が必要であるが,しばしば病歴聴取ができなかったり,薬物の特定ができないことがある.本症例では,消化管内に存在する高吸収域(未消化の錠剤)から,急性薬物中毒を強く疑い診断に至ることができた.CTは98.5%の特異度で急性薬物中毒を指摘でき,有用なツールである1).
カフェインは嗜好品,感冒薬だけでなく,眠気予防薬に含まれている.近年はいわゆる「自殺サイト」で紹介され,インターネットで大量にしかも容易に購入できることから,カフェイン中毒が増加している.
カフェイン中毒では交感神経刺激作用が出現し,初期症状として食欲不振,振戦,不穏,悪心,嘔吐,頻脈などが起こる.重症例では,低カリウム血症,高血糖,代謝性アシドーシス,横紋筋融解症,低血圧,意識障害,痙攣発作,不整脈などがみられる.カフェインの半減期は3〜6時間で,症状および,検査値異常の多くは摂取から数時間後に起こる.血中致死濃度は100 mg/L以上とされているが,血中カフェイン濃度は通常は測定できず,外注で時間がかかるため,ほとんどの場合には病歴聴取,臨床症状で診断・治療を開始する.
カフェインに対する拮抗薬,解毒剤はなく,カフェイン中毒に対する一般的治療は,対症療法,排泄促進手段としての血液透析,血液灌流が有効である.活性炭消化管内投与が有効であるという証拠はない.循環作動薬や抗不整脈薬には抵抗性で,重篤な副作用をきたした場合には死亡例も報告されている.
本症例では,血圧低下,著明な発汗,心室頻拍を認めており,直ちに気管挿管後,人工呼吸管理とし,循環管理,痙攣対策,電解質補正を行った.血中カフェイン濃度測定により診断が確定したのが24時間以降であったため,血液吸着は行わず症状は輸液で軽快した.
本症例は,消化管内に未消化の錠剤と思われる高吸収領域を認めたことから薬物中毒を疑ったが,薬物中毒検出用キット(トライエージ®)では陰性であった.カフェインやSSRIはこれらのキットでは診断できないこともあり,注意が必要である.
家族によると,患者はストレスを抱えていたが,抗不安薬などの薬物は処方されていなかった.翌日,家族から,ゴミ箱に捨ててあるカフェインの空瓶を発見したと連絡があり,患者自らが自殺を目的としてインターネットで購入したものと判明した.
今後本邦でカフェイン中毒は増加すると思われ,注目しておくべき病態である.