画像診断Q&A

レジデントノート 2018年8月号掲載
【解答・解説】交通外傷で搬送された20歳代女性

ある1年目の研修医の診断

右鎖骨と胸骨骨折は外来で治療可能ですが,乗っていた乗用車が大破していましたので,高リスク受傷機転と考え,入院のうえで経過観察としました.

Answer

シートベルトによる小腸損傷・腸間膜損傷

  • A1 :右鎖骨骨折(図1),胸骨骨折(図2),腹壁皮下血腫(図3)および右腹斜筋損傷(図3)を認める.
  • A2 :損傷部位はシートベルトの位置に一致しており,シートベルトによる損傷が考えられる.
  • A3 :腸管・腸間膜損傷に注意して,入院のうえで経過観察すべきである.
  • 経過 :右下腹部の熱感を伴う痛みはシートベルトによる皮下血腫が原因と考えられたが,翌日に下腹部に強い圧痛と筋性防御が出現し,単純CTが撮影された(図4).小腸壁の断裂()と腹腔内脂肪織の広範な濃度上昇がみられ,小腸損傷および腹膜炎の診断で緊急手術が行われ,開腹所見にて小腸損傷,腸間膜損傷と診断された.

解説

シートベルト着用率やエアバッグ装着率の上昇に伴い,交通事故による重症の胸腹部外傷が減少している.一方で,シートベルトによる小腸,胃,十二指腸,肝臓,脾臓,膵臓,横隔膜などの腹部臓器損傷や肋骨,胸骨,鎖骨,頸椎,腰椎の骨折に遭遇する頻度が増加している.

シートベルトには2点式(骨盤部のみを固定するタイプ)と3点式(胸部と骨盤部を肩から腰にかけて固定するタイプ)がある.2点式シートベルトでは腹壁,腸管,腸間膜の損傷や過屈曲による腰椎骨折(Chance骨折)が生じうる.一方,3点式シートベルトは肋骨骨折,胸骨骨折などの損傷が主体であるが,事故の衝撃でシートベルトが腸骨稜から腹部へスリップすることで腹部に直接衝撃が伝わるサブマリン現象により,腹部臓器損傷が起こりうる.腹部臓器損傷のなかでも,腸管損傷の頻度が高いとされる.その機序として,① シートベルトと脊柱の間に挟まれることによる直接外力,② シートベルトの圧迫により形成された閉鎖腔の内圧上昇,③ 腸間膜や血管の牽引が考えられている1)

身体診察ではシートベルト痕と腹部症状が重要であるが,腸管損傷では受傷直後に腹部症状がみられないこともある.初診時の腹部症状が軽微であり,帰宅後に死亡した例や,穿孔に至らずに瘢痕狭窄から腸閉塞を発症した例が報告されている.CTでのfree airの出現頻度は4時間以内で13%と低いが,24時間以降では100%であったと報告されている.つまり,受傷から時間が経過するほど診断が容易であるということであるが,受傷後8時間を超えると死亡率や術後合併症率が上昇するとされる2)

自動車乗車中の交通外傷患者の診察では着用していたシートベルトの種類やシートベルト痕を確認し,CT画像でシートベルトによる外傷性変化が認められた場合は,free airがなくても,遅発性の小腸損傷に注意し経過観察する必要がある.

図1
図2
図3
図4
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文献

  1. 大村健史,他:シートベルトによる腸管穿孔症例の検討.日本腹部救急医学会雑誌,36:1173-1176,2016
  2. 太田智之,他:シートベルトによる腹腔内臓器損傷に対する治療戦略.「特集 腹腔内臓器損傷(肝を除く)の治療戦略」,日本腹部救急医学会雑誌,32:1201-1207,2012

プロフィール

井上明星 (Akitoshi Inoue)
東近江総合医療センター 放射線科
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