画像診断Q&A

レジデントノート 2019年4月号掲載
【解答・解説】左下腹部痛を主訴にした40歳代女性

ある1年目の研修医の診断

すこし脂肪の濃度が高い部分はありますが,特に問題はないようにみえます.便秘ですかね.

Answer

腹膜垂炎

  • A1:S状結腸に接して脂肪濃度上昇がみられ,その中心には卵円形の脂肪性腫瘤が確認される.近接する腹膜は肥厚している.結腸腹膜垂炎を強く示唆する所見である.
  • A2:痛みに対する対症療法(消炎鎮痛薬など)のみ.

解説

皆さんは医学部の学生の頃,解剖学の教科書や解剖実習で,結腸ヒモに沿ってぶら下がったたくさんの黄色い脂肪組織を見た覚えはあるだろうか.名前は覚えていないかもしれないが,それこそが「腹膜垂」である(図3).腹膜垂は,直腸を除く大腸全域に広くみられ,大腸漿膜下組織から連続して腹膜腔内に突出する漿膜に覆われた構造で,そのほとんどが脂肪で構成されている.大きさは3 cmまでのことが多いが,稀に5 cmを超えるものも存在する.普段CTなどでは腹膜垂を同定できず,日常的にはその存在を忘れがちである.

この腹膜垂に炎症が生じた状態を腹膜垂炎(epiploic appendagitis)とよび,原因として腹膜垂が捻転することにより循環異常をきたし,腹膜垂そのものに炎症をおこすという説が提唱されている.肥満体型の男性にやや多いとされる.

患者は急性発症の限局的な腹痛を訴えるが,発熱などの全身症状はない場合が多い.腹膜垂は腹膜の近くに存在する場合も多いため,炎症をおこすと比較的容易に近接する腹膜に炎症が波及する.そのため限局的な腹膜刺激徴候を認める場合も多い.憩室炎や虫垂炎が鑑別となりうるが,腹膜垂炎は疼痛管理以外に特に治療が必要な疾患ではないと考えられており,不要な治療を防ぐためにも正確な診断が求められる.

画像診断はCTで行われることが多く,痛みの部位に一致した限局的な脂肪織混濁と,その中心に原因となった腹膜垂を示唆する脂肪性腫瘤が認められる.腹膜垂炎では通常この脂肪性腫瘤をとり囲むように薄い高吸収被膜が認められ,炎症で肥厚した漿膜をみているものと考えられる.またこの脂肪性腫瘤の中心部に小さな高吸収域が認められることがあり,腹膜垂の内部に存在する血管などをCTでみていると考えられる.近接する腹膜の肥厚が認められることが多い一方で,結腸への炎症波及はあまり認められない.

万能ではないが,腹痛患者のCTを見る場合,やはり症状に合致する脂肪織混濁を探すことは非常に大切であり,その診察所見と画像が密接にからむ本疾患の診断は,他疾患の診断にも応用できるため,ぜひ習得していただきたい.

図1
図2
図3
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プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線科・総合画像診断センター
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