画像診断Q&A

レジデントノート 2019年8月号掲載
【解答・解説】突然の強い腹痛を訴える80歳代男性

ある1年目の研修医の診断

単純CT上は,腹痛の原因となるような異常所見を見つけられません.しかし,うずくまるほどの突然の強い腹痛なので血管性病変も考えて造影CTも考慮した方がよいと思います.

Answer

腹直筋血腫

  • A1:腹直筋に左右差があり,左側で腫大が認められる.内部はやや高濃度を示す(図1A).
  • A2:腹直筋血腫(とくはつせい).

解説

急激な腹痛をきたす疾患はさまざまであり,当然だが腹壁などの体表にその原因が存在している場合もある.しかし原因が腹腔内や後腹膜腔内にあると思い込み,そこばかりを入念に画像などで検索してしまい,本疾患を見逃すというケースが少なからず存在する.今回はそのようなピットフォールを学びたい.

腹直筋血腫は,上・下腹壁動静脈の破綻により生じる.本症例のように特に誘因なく生じる特発性のものもあるが,外傷,くしゃみや咳嗽などの筋肉の収縮,高血圧などさまざまな原因が考えられている.わが国は高齢化が進み,抗血小板薬や抗凝固薬など腹直筋血腫の危険因子となりうる薬剤を内服している患者が増えており,本疾患もそれに伴って増加している.

しかし,本症例のように腹直筋の腹腔側に血腫が生じた場合,体表から観察される皮膚の色調などには変化が乏しく,自覚症状としても「内臓痛」のように感じてしまうことがしばしばある.また,身体所見として腹壁に正中を超えない腫瘤を触れ(Fothergill徴候),その部位に限局した疼痛を認めた場合は本疾患を鑑別にあげることは可能であるが,いわゆる「腹膜刺激徴候」との区別が容易ではないことも多い.したがって特に抗凝固薬などを内服している高齢者の突然の腹痛では,腸炎,虫垂炎,憩室炎,消化管穿孔などとあわせて,本疾患も頭に入れておく必要がある.

腹部超音波検査でも痛みの部位に一致した腹直筋の腫大が認められるが,先述のような鑑別疾患があがることから,CTが最初に撮影されるケースが多い.そのため,このときに腹壁を構成する筋や脂肪,皮膚なども丁寧に読影することが正しい診断への近道となる. 本疾患は基本的に保存療法のみで治癒に至るが,腹直筋外にも拡大する血腫をみた場合や動脈性出血が続く場合などは凝固因子の補充や輸血,血管内治療や手術などが必要となる場合もある(図2).

図1
図2
  • 画像はクリック/タップで拡大します

プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線科・総合画像診断センター
サイドメニュー開く

TOP