脳室の拡大を認めるため水頭症の増悪を考えます.原因として腹部CTより液体貯留がみられるため腹腔内の感染を考えます.
小児水頭症に対する有効な治療法として脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)が用いられている.V-Pシャントの合併症として頻度が高いものは,シャント感染と閉塞である.
シャント感染は約70%が術後1カ月以内に,90%が1年以内に発症し,慢性期の発症は稀である.シャント感染が疑われれば,緊急でシャント抜去,外ドレナージ,抗菌薬投与が必要で,感染が消退するのを待って外ドレナージを抜去,新しいシャントを造設する.
シャント閉塞の原因は,シャントバルブの機械的閉塞をはじめ,膜様組織によるチューブの閉塞,成長による逸脱などがある.腹側のシャントチューブの合併症としては,腹壁穿孔,腸管穿孔,腹水,cerebrospinal fluid (CSF) fistula(髄液瘻),ヘルニア,陰嚢水腫等が知られている.
本症例でみられた腹腔内髄液仮性嚢胞の形成は比較的稀であり,過去の文献ではV-Pシャント術を行った症例の0.7~4.5%に発生するとされている1,2).本症例においては初発症状として腹部膨隆,嘔気,嘔吐が認められ,腹部腫瘤による機械的圧迫の影響が考えられた.さらに,頭蓋内圧亢進症状と思われる意識レベルの低下と痙攣があり,頭部CTより水頭症の増悪が認められたため脳神経外科コンサルテーション後に緊急手術の適応となり,胸部でシャントチューブを切断,脳室側のチューブは外ドレナージとし,腹側チューブは抜去した.
腹腔内髄液仮性嚢胞の発生機序として① シャントチューブ先端による機械的刺激,② シャントチューブ先端の炎症反応,③ くり返し行われた腹部手術操作や感染による髄液吸収障害,④ 髄液中のタンパクによる刺激,などがあげられる3,4).本症例は,計4回のシャント感染,シャント再建術の既往があり,これらが嚢胞の形成に関与した可能性があった.
本症例においては,手術後に症状や水頭症はすみやかに軽快し,3週間後に新たな腹側チューブが挿入された(図5).
V-Pシャントは脳神経外科では比較的よく行われる手術である.救急外来でもクモ膜下出血のあとや脳出血のあとにV-Pシャントが留置された患者を診療する機会は多く,その合併症について習熟しておくことが必要である.V-Pシャント術が施行される患者のなかには,腹部症状を自ら訴えることのできない方もいるため,家族に腹部膨満感等の症状についても説明を行っておくことが重要である.