画像診断Q&A

レジデントノート 2020年1月号掲載
【解答・解説】発熱が続く60歳代男性

ある1年目の研修医の診断

熱源検索CT,大概は肺炎か尿路感染症のパターンですけど,違いそうですね.腰椎が少し破壊されているようですけど,発熱とは関係なさそうです.

Answer

右腸腰筋膿瘍

  • A1:右腸腰筋が対側に比べて腫大していて,(印刷によりコントラストがついているかわからないが)内部にはやや低濃度の部分がある(図1図3).
  • A2:右腸腰筋膿瘍.治療は起炎菌への感受性がある抗菌薬の全身投与を行う.

解説

高齢者の発熱の原因は,風邪症候群などの上気道感染,肺炎,尿路感染症がかなりの割合を占める.そのため発熱患者を診療する場合,まずはこれらの疾患を疑うということは正しい.これらの疾患の可能性が低いと考えたとき,ぜひ検討したい疾患の1つにこの腸腰筋膿瘍がある.

症状は発熱のほか,主に歩行時の腹痛や腰背部痛,psoas徴候(股関節の伸展が難しく,伸展させた場合に下腹部痛が生じる)といったものが知られ,これらの所見がそろえば鑑別の上位にあげることが可能である.しかし普段から歩行していない患者であったり,「発熱しているから筋肉痛はあってよい」という解釈をしたりすると,決して頻度の高くない本疾患の診断から遠ざかってしまう.

腸腰筋膿瘍を起こす原因としては,背景に菌血症があり,細菌が血行性に腸腰筋に侵入する場合のほかに,椎間板炎,虫垂炎,腎膿瘍など近接する炎症が直接波及する場合も多い.

基本に忠実な全身の身体診察を行えば,疑うことは難しくないはずであるが,「感染フォーカス不明の発熱」としてCTが撮影されることも結構多い.造影CTで膿瘍を示すリング状の造影効果とその内部の液体貯留が腸腰筋内に認められれば診断は容易(図1B図3)だが,今回提示した症例のように単純CTのみでも片側の腸腰筋の腫大と,(コントラストを調整しないと不明瞭ではあるが)腸腰筋内部の低濃度域が認められれば疑うことは可能である(図1).ただここで注意が必要なのは,脳梗塞の既往などによる片麻痺や下肢のケガ,変形性胸椎・腰椎症などで,もともと片側の腸腰筋の萎縮が認められることがあるため,腸腰筋に左右差が認められたとしても,総合的な判断が必要になるという点である.図2(前頁にのみ掲載)では大殿筋や腸骨筋に左右差がないため,本症例ではこのような可能性は考えにくい.腰痛を認めることから,腰部のMRIが先行する場合もあり,腰椎,椎間板,脊柱管だけではなく,撮影範囲に必ず含まれる腸腰筋にも必ず目を配り,T2WIでの高信号域を見つけることが重要である(図4).

治療は起炎菌への感受性がある抗菌薬の全身投与が基本となるが,CTや超音波ガイド下でドレナージチューブを留置されることも多い.

本疾患に限らず,CTなどの画像が「はじめて疑うキッカケ」になることは,本来あるべき内科診断学の面から考えると避けたいものである.例えば「なぜか膝関節,股関節を曲げて寝ている」という些細なことも,診断に近づく一助となるかもしれない.しかし,特に疑うことなくCTやMRIを撮影した際にも,腸腰筋などの左右差に必ず目を配ることを忘れないでほしい.

本稿は,長野広之 先生(洛和会丸太町病院 救急・総合診療科)に助言いただきました.

図1
図2
図3
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プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線科・総合画像診断センター
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