左下肺野の透過性低下を認めます.末梢血好酸球増多から薬剤性肺障害,ANCA関連疾患,寄生虫疾患,真菌感染症などが鑑別にあげられますか?
胸部単純X線写真では左下肺野に横隔膜とシルエットサイン陰性の浸潤影(図1◯)を認めた.主訴,身体所見,血液検査から細菌性肺炎は否定的であった.本症例は気道可逆性試験で気道可逆性の基準を満たしていないが,好酸球性副鼻腔炎の既往,夜間咳嗽の存在から,臨床的に気管支喘息と診断した.また,胸部CTでは右中下葉に気管支壁の肥厚像(図2A→),淡い小葉中心性陰影や斑状のすりガラス影(図2A▲)を認め,左下葉気管支に粘液栓(図2A▲),さらにその末梢に浸潤影を認めた(図2B◯).粘液栓は高吸収粘液栓(high-attenuation mucus:HAM)を呈していた(図2C→).末梢血好酸球増多と胸部陰影からは,薬剤性肺障害,寄生虫疾患,慢性好酸球性肺炎,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)が鑑別にあがる.本症例はABPAに疾患特異的であるHAMを認めたことから,ABPAが強く疑われた.
気管支鏡検査では左下葉気管支内に粘液栓を認めた.粘液栓の病理像では好酸性変性,壊死物,核片,好酸球,好中球浸潤がみられ,TBLB(transbronchial lung biopsy:経気管支肺生検)では好酸球を主とした炎症細胞浸潤と器質化像を認めた.病理組織像,細菌検査から真菌は確認されなかった.特異的IgE(MAST)ではアスペルギルス陰性,イヌのふけ3+であったが,アスペルギルス沈降抗体(保険未収載)は陽性であった.MAST法によるアスペルギルス特異的IgEは陰性を示すことがあることから1),本症例は総合的にABPAと診断した.
ABPAは1型および3型アレルギー反応が関与し,末梢血好酸球増多,血清IgE値上昇,中枢性気管支拡張,粘液栓の存在などが特徴となる.治療には全身性ステロイドを単独で用いるか,加えて抗真菌薬を使用するが,患者の約半分が再発するとされる2).また,アスペルギルス以外の真菌が原因となり同様の病態を示すことから,アレルギー性気管支肺真菌症(allergic broncho pulmonary mycosis:ABPM)と総称されている.