続発性自然気胸は,さまざまな呼吸器疾患に合併して起こりうるが,なかでも肺気腫によるものの頻度は高い.本例の胸部X線写真も,一見すると肺気腫を考えたくなるが,若年者で喫煙歴も乏しい点が合わない.若年性肺気腫ではα1-アンチトリプシン欠損症など遺伝的要因によるものが鑑別になるが,本邦では非常に稀である.さらに胸部CT写真(図3)を見ると,気腫性変化ではなく多発嚢胞の所見であり肺気腫は否定的である.一般的に気腫は壁構造をもたず低吸収域(low attenuation area:LAA)と呼ばれ,壁構造をもつ肺嚢胞(lung cyst)とは区別される1).進行した肺気腫では壁構造があるように見えることも少なくないので明確な区別が難しい場合もあるが,本症例は薄壁構造をもった嚢胞であり,嚢胞性疾患の鑑別を考えるべき所見である.嚢胞は両肺びまん性に多発しており,妊娠可能な若年女性であることも合わせるとリンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis:LAM)の可能性が高いと考える.右気胸に対して胸腔ドレナージを行ったが難治性であったため外科治療を施行し,切除した組織からLAM細胞を認め確定診断となった.
LAMは平滑筋様細胞(LAM細胞)が肺やリンパ節等で異常増殖する疾患であり,結節性硬化症(tuberous sclerosis complex:TSC)に合併する場合と孤発性の場合がある.TSCは顔面の血管線維腫,てんかん発作,知能低下を古典的三主徴とする疾患であり,本症例ではTSCの所見は認めないことから孤発性LAMである.病初期には嚢胞は軽度であるが,本例のように進行し多発嚢胞を呈した場合は,肺気腫と類似した胸部X線写真となる.
診断には組織学的検査によるLAM細胞の証明が必要であり,本例は気胸の外科治療時に採取した検体から診断した.気胸をきっかけに診断に至る頻度は比較的多く,36.9%であったとの報告2)もある.また気胸は経過中に56.9%起きたとの報告2)もあり,頻度の高い合併症である.疾患進行に伴う嚢胞の増加・増大と1秒率の低下が予後に影響するため,それらを抑えることが治療の目標となる.第一選択薬としてmTOR(ラパマイシン標的タンパク質)阻害薬であるシロリムスが用いられており,本例でも使用している.
妊娠可能年齢の女性が自然気胸を発症した場合,一般的には月経随伴性気胸を第一に鑑別するが,LAMの可能性も念頭に置くことが重要である.また嚢胞形成が進んだLAMでは肺気腫と類似した胸部X線写真を示すことを覚えておきたい.