両肺野に淡いすりガラス陰影を認めます.KL-6上昇を認めていることから間質性肺炎を考え,胸部CTや気管支鏡検査などの精査を行います.
胸部単純X線写真では両肺野にすりガラス陰影が拡がり,下肺野の透過性が低下している(図1).胸部CTでは上葉で小葉中心性の粒状影,すりガラス陰影が目立つ(図2◯).下葉ではすりガラス陰影は汎小葉性に分布している(図3➡).また,肺野濃度が異なる部位が混在したモザイクパターンを認める(図3◯).
気管支鏡検査を施行し,気管支肺胞洗浄液中のリンパ球上昇を認めた.経気管支肺生検では,肺胞腔に肉芽腫形成を伴う炎症細胞浸潤を認め,過敏性肺炎に合致する所見であった.血液検査で抗トリコスポロン・アサヒ抗体陽性と判明し,夏型過敏性肺炎と診断した.病歴聴取にて,職場の部屋の至るところにカビが繁殖していることが判明した.職場の同僚は無症状であったが,患者は室内業務が中心で,抗原曝露量が多いために夏型過敏性肺炎を発症したと考えられた.その後は抗原回避(休職)のみで咳嗽は消失し,KL-6の低下および肺陰影の改善が得られたが,数カ月後にやむをえず職場に立ち入った直後に肺炎の再燃が起こり,再度抗原回避のみで改善した.
過敏性肺炎は抗原を反復吸入することで肺の胞隔や細気管支に炎症をきたす疾患で,Ⅲ型およびⅣ型アレルギーが関与している.過敏性肺炎の原因抗原は羽毛や鳥排泄物,真菌,化学物質など多岐にわたるが,本邦では真菌のTrichosporon asahii(T.asahii)によるものが,鳥関連過敏性肺炎に次いで頻度が高く,夏型過敏性肺炎という名で広く知られている.T. asahiiは高温多湿の木造家屋に繁殖しやすく,抗原が増加する夏に肺炎が好発する.しかし近年は気密性の高い住居の増加に伴い,季節にかかわらず夏型過敏性肺炎を診療する機会が増えている.
過敏性肺炎のCT所見は,経気道病変を反映した小葉中心性粒状影・すりガラス陰影が特徴的である.多数の組織球やその他の細胞が肺胞腔に充満すると,小葉中心に留まらない広範なすりガラス陰影やコンソリデーションとなる1).肺野濃度が場所によって異なり,モザイク状の濃淡を呈する所見をモザイクパターンと呼び,すりガラス陰影と正常域の混在や,末梢気道の閉塞による空気のとらえこみ現象(air trapping)を反映した低吸収域と正常域の混在を表す2).過敏性肺炎が慢性化すると肺の線維化が進み,気管支拡張像や網状影が出現する.
過敏性肺炎の治療の原則は徹底的な抗原回避であり,特に夏型過敏性肺炎は環境の整備のみで改善が見込まれる.重症例ではステロイドを使用する場合もあるが,抗原吸入を続ける限り病態の安定化は難しく,抗原回避なしに治癒は期待できない.ハウスクリーニングで改善が得られなければ,リフォームや転居を検討する.治療には患者の疾患への理解と抗原回避の協力が不可欠で,丁寧な病状説明が重要である.