本症例で提示したCT画像(図1)からは,炎症を伴う大動脈瘤に加えて大動脈解離,血管炎,腫瘍の可能性が考えられた.受診3カ月前のCT画像(図2)では異常を認めないことから,比較的早い経過で病変が出現しており,大動脈周囲の炎症が疑われ,感染性大動脈瘤と炎症性大動脈瘤の可能性が最も考えられた.感染性大動脈瘤は感染を伴う大動脈瘤をいう.今回の症例は感染を契機に大動脈瘤が形成されたと考えられるが,既存の大動脈瘤に感染した場合も感染性大動脈瘤と呼ばれる.症状は発熱と炎症反応の上昇,増悪すると胸部痛や背部痛,腹部痛が生じ,血液培養結果が診断の参考になる.正常な動脈壁の構造は失われ,仮性動脈瘤となっているため破裂のリスクが高い.特徴的なCT所見として,限局した不整な嚢状動脈瘤,周囲の濃度上昇,急速な瘤径の増大,後期相で動脈壁や周囲に不均一な造影効果がみられることが知られている.炎症性大動脈瘤は,自己免疫性疾患などによる炎症を伴う動脈瘤であり,感染を伴わないという点で,感染性大動脈瘤とは疾患概念が異なる.両者の画像所見は類似しているが,感染性大動脈瘤に比べて,炎症性大動脈瘤では,紡錘状でやや整な形状,瘤の増大が緩やか,炎症反応が軽度であることがあげられる1).
感染性大動脈瘤の治療では,抗菌薬の投与と,外科的加療を行う.外科的加療には観血的手術と血管内治療があり,近年では侵襲性の低さから血管内治療が行われることが多くなっている.感染部位に異物であるステントを留置する点で感染増悪のリスクがあるが,生存率は観血的手術と差がないとの報告もある2,3).
本症例では,腸閉塞を疑われて施行された非造影CTで胸部下行大動脈周囲の軟部濃度病変が指摘され,追加で行われた造影CT(図3)で感染性大動脈瘤の診断となった.大動脈疾患は致死的となりうる.大動脈病変とは関係の乏しい症状であっても大動脈に異常を認めた際には,造影CTの追加を考慮する必要がある.