〈臨床経過〉画像所見によりWernicke脳症が疑われ,問診の結果,2カ月ほど前から抑うつ症状があり徐々に食事量が低下しており,1週間ほど前から食事も水分もほとんど摂取できない状態であったことが明らかとなった.その後,ビタミンB1投与により意識レベルは改善した.さらに,血液検査でビタミンB1低値(18.2 ng/mL[基準値:21.3〜81.9 ng/mL])が証明されたことにより確定診断された.
ビタミンB1欠乏の原因として慢性アルコール中毒が最も多く,そのほかの原因として偏食による摂取不足,嘔吐や下痢に伴う喪失,肝障害に伴う貯蓄量の減少などが知られている.ビタミンB1欠乏により引き起こされる疾患として,脚気とWernicke脳症があるが,両者はしばしば合併する.Wernicke脳症の古典的症状として外眼筋麻痺,運動失調,意識障害の3徴が有名であるが,3徴すべてを示す古典的な症例は少ない1).治療はビタミンB1投与であり,早期に治療が行われれば予後は良好であるが,治療が遅れると慢性的に健忘や作話の症状が残り,Korsakoff症候群となる1).MRIは早期より特徴的な画像所見を示し,ビタミンB1値よりも先に結果が得られるため,診断の契機となることがある.
ビタミンB1は中枢神経系において糖代謝に必須な3つの酵素の補酵素として働き,細胞膜を介する浸透圧維持に関与している.欠乏時には膜輸送の障害が起こり細胞内・細胞外の浮腫をきたす.特に第三脳室・中脳水道・第四脳室の周囲はビタミンB1が関与するグルコース・酸化代謝のさかんな部位であり,それらの壁に沿って障害が発生する2).
画像所見では,前述の障害部位に一致する第三脳室(視床内側),中脳水道周囲,第四脳室底,乳頭体にT2強調像やFLAIR像で対称性の高信号を認める1).造影増強効果を呈することもあるが,特に乳頭体でみられることが多い1).その他の病変部位として,稀に小脳や脳神経核,赤核,脳梁,大脳皮質にも病変が認められることがある2).予後との関連では,中脳水道のみが侵された症例では予後良好で,視床内側の高信号域や乳頭体の造影効果を認めた場合には精神障害が残り,Korsakoff症候群を呈することもある1).
Wernicke脳症の診断にはビタミンB1欠乏を念頭においた病歴聴取が重要であるが,本症例のように意識障害で発症し病歴聴取が困難な場合であっても,特徴的な画像所見から本疾患を疑うことが可能であり,特徴的な画像所見を知っておくことは重要である.