症状から大動脈解離にほぼ間違いないと思っていたんですが,予想したような大動脈解離は…ないですよね? え,じゃあ何なんだろう,こんなに痛がるのは.
尿管結石症は日常診療でしばしば遭遇する疾患であり,おそらく本稿が読者に届くころには,大半の研修医1年目の先生も経験していると思われる.尿管結石症は,涼しくなり水分摂取が少なくなる季節などに多く,尿量が減ることで腎臓などで尿内の成分が析出し,結石となる(カルシウム結石が約70〜80%,尿酸結石が約10%前後).それが尿管に移行して詰まり,激しい痛み(疝痛)と血尿を呈する疾患である.
診断には単純CTが最も有用で,単純X線で描出困難な尿酸結石なども検出可能である.CTでは水腎症や尿管拡張などの間接所見を手掛かりに,尿管を尾側へ追跡し,尿管内の結石そのものを探すことが重要である.体質的に尿路に結石を生じやすい患者には両側で結石を認めることもあるので,必ず両側確認する.もちろんCTの前に,腹部超音波検査を行うことは非常に有用であり,ぜひ習得しておくことが望ましい.
本例のような,突然発症した強い背部痛を訴える患者を診療する際,急性大動脈解離を念頭に診療を行うことは正しい.しかしCT画像で大動脈に異常を認めなかった場合,症状からは尿管結石症も当然鑑別にあがる.ただ大動脈解離と比較してCTでの異常所見が非常に小さく限局しており,意識して探さない限り,尿管結石症は容易に見逃してしまう.本例は,担当した研修医が「こんなに痛みが強く,重篤感があるのであれば,さすがに尿管結石症ではないのではないか」という印象を持ったために見逃されかけた.
検査で異常所見があったとしても,その所見に読み手が気づき,正しく診断できるかは別である.問診や診察をおろそかにして具体的な鑑別があがっていない段階で「とりあえずCT」という診療も問題だが,本例のように最も疑っていた疾患がCT撮影後に否定的であった場合,次にどう考えるか,どんな疾患を想起するか,ということも常に意識して診療に臨みたい.