左主気管支に重なるように腫瘤影が認められます.縦隔腫瘍や左主気管支内の病変が疑われます.
本例は奇静脈瘤の症例である.
胸部単純X線写真では左気管気管支分岐角に境界明瞭な円形の構造物として描出されており(図1A),奇静脈食道線は上部で右方に膨隆している(図1B).病変が中縦隔に存在していることを疑う所見である.
奇静脈食道線は気管分岐部〜横隔膜の高さで胸椎の正中線近くを左下方にやや斜めに縦走する線である.気管分岐部より下方では右下葉の一部が椎体前方に入り込んでおり,この部を奇静脈食道陥凹と呼ぶ.奇静脈食道線は右下葉内側縁が奇静脈と食道に接することにより形成され,上部では奇静脈弓へと右上方向に走行する.この線の異常は,気管分岐部リンパ節の腫大や奇静脈食道陥凹に入り込んだ肺病変,食道腫瘤などでみられる.本症例では,奇静脈食道線が頭側の奇静脈流入部レベルで右方に膨隆している所見が重要である.
奇静脈瘤は稀な疾患であり,大部分が無症状で,健康診断や他疾患精査の際に偶発的に発見されることが多いが,ときに咳嗽や胸痛などの報告もみられる.奇静脈瘤は,奇静脈の発生異常による壁の脆弱化が原因と考えられる特発性と,心疾患による中心静脈圧の上昇,下大静脈や門脈閉塞による二次性に分けられ,外傷に伴う仮性瘤の場合もある.瘤の形状として紡錘状と嚢状に分類され,嚢状瘤で有症状のものが多く,増大速度も速いとされる.
画像所見は,胸部単純X線写真で右気管気管支分岐角に円形ないし卵円型の境界明瞭な構造物として認められ,リンパ節腫大や縦隔腫瘍を疑われ精査となることが多い.造影CTが診断に有用で,気管分岐部近くで内部均一に造影される構造物として描出され,縦隔腫瘍やリンパ節腫大と鑑別可能である(図2).再構成画像(multiplanar reconstruction:MPR)や3D画像も解剖学的な位置関係を把握するのに有用で,瘤と奇静脈の連続性を確認できれば確定診断となる.本症例は気管分岐部より左側寄りに存在したが,好発部位は右気管から右主気管支をまたぐ奇静脈弓近傍である.
治療は手術が行われることが多いが,血管内治療や抗凝固療法の適応となることもあり,瘤の局在やサイズ,増大速度,瘤内血栓の有無により選択される.本症例ではサイズが大きいことから肺血栓塞栓症などの合併症を考慮し,胸腔鏡下静脈瘤結紮術が行われた.