各科がめざす専門医の姿

麻酔科専門医
話し手:大嶽浩司 先生
昭和大学医学部麻酔科学講座教授/日本麻酔科学会専門医研修プログラム検討ワーキンググループ長

2017年度からの麻酔科専門医研修

—2017年度からの麻酔科専門医研修で新しくなることや研修の特徴がありましたら教えてください.

話し手:大嶽浩司 先生

今までの研修では,専攻医が自分で所定の症例を経験したり,単位を集めたりして自分でカリキュラムをつくっていかなければいけませんでした.2017年度からはじまる新専門医制度では,すべての科の専門医研修はプログラム制となります.プログラム制では病院群が研修プログラムを提供し,プログラムが責任をもって専門医になるために必要な症例,学会の発表などを経験させることになっています.所属するプログラムを無事に修了すれば専門医試験を受ける資格が得られるというところが今までと大きく違います.ただ,麻酔科では,先行して2015年度からプログラム制での研修がはじまっています.2015年度時点では,麻酔科のプログラムが全国で174あり,大学が90,市中病院が80ほどです.すべての都道府県にプログラムは必ず1つ以上ありますので,どこの都道府県にいてもプログラムには参加できるようになっていますし,大学だけではなく,中小の市中病院を中心にしたプログラムも存在します.プログラム制導入の数年前から麻酔科の専門医研修では新専門医制度に合わせて,経験しなければいけない特殊症例や全経験症例数の設定を段階的に取り入れています.

2017年度からの麻酔科専門医の研修プログラムは4年間です.4年間で臨床経験として600症例以上の手術麻酔管理をしてもらいます.このなかで,心臓・大血管・脳外科・胸部外科・帝王切開・6歳以下の小児の麻酔をそれぞれバランスよく経験することが義務付けられています.

研修期間は4年間と定めていますが,正当な理由があって,連続した2年以内であれば,研修期間中,何回でも休止することができます.休止前までやってきた研修はしっかりカウントされます.例えば,海外での臨床や出産・育児,介護などを理由として休止することができます.若い世代の麻酔科医の約半分をしめる女性が無理なく専門医が取れるようにと考えました.女性が生き生きできない職場にしてしまうと麻酔科の勢いがなくなってしまいますからね.もちろん休んだ分,研修期間は延長することになりますが,それでもキャリアは自分のペースに合わせて歩んでいけます.

—麻酔科の研修プログラムは,ずいぶん前から計画的に用意されてきたのですね.

そうですね.2017年度から新しい制度になることがわかっていたので,できるだけ専攻医になる先生が大きな変化をいきなり体験しないでよいように配慮してきました.あとプログラムを運営する指導医側もいきなりはじめると混乱します.運営する側が混乱すると,入ってきた専攻医も混乱しますので,研修そのものに集中できるように徐々に変えてきました.2017年度から研修をはじめる人たちは新しい研修内容やシステムにはじめて直面するわけでないので,例えば2015年度から研修をはじめた先輩をお手本にしながら研修を受けることができると思います.

—専門医を取得した後,サブスペシャルティ領域は何が取得できますか.

麻酔科の診療領域には,手術麻酔だけでなく,集中治療,ペインクリニック,緩和医療,救急医療などがあります.このうち,集中治療とペインクリニックは麻酔科専門医を取った後にサブスペシャルティとして専門医を取得できることが決まっています.緩和医療は,多職種チームでやるという面があって複雑なため,今はまだどうなるか決まっていません.また,新専門医制度とリンクしているわけではありませんが,手術麻酔のなかでも,心臓血管麻酔,小児麻酔,区域麻酔などの認定制度があります.

幅広い臨床経験と研究マインドをもった専門医を育てたい

—学会として,どのような専門医を育てていきたいと考えていますか.

さきほど言ったように2017年度からの研修では4年間で600症例以上の手術麻酔を経験することになります.1年間で考えると最低150症例ほどで,余裕のある数にしています.その理由は,手術麻酔だけではなくて,集中治療,ペインクリニック,緩和医療などの関連領域も経験して,麻酔科医として幅広い臨床経験をもってほしい,という考えがあります.専門医試験にはペインクリニックも,緩和医療も,集中治療も出題範囲に入っています.

あとは研究にも興味をもつことが非常に大事だと思いますので,基礎研究,あるいは臨床研究をする時間が取れるようにしました.若いうちに学術に触れる習慣を身につけておかないと,専門医を取ってから研究をはじめるのは30歳を超えてからですので非常に大変なんですね.研究と臨床は一体であり,医師として,いわゆる科学的思考をもつということが非常に大事ですし,現代医療の根幹だと思っています.科学的思考をもつということは,本に書いてあることをできる人になるということではありません.日頃,臨床上の疑問を常にもって,それを探究していくことができるということです.臨床と研究をやらないとクリニカルクエスチョンはもてないと思うので,「どうしてこうなんだろう」「本当はこうやった方がもっといいんじゃないか」ということを考えて,自分でエビデンスをつくれる人,将来の医療の方向を見定められる人を育てていかないといけないと考えています.学会などでは何年後あるいは十何年後のガイドラインがどうなるかを話しているわけです.EBMはもちろん大切ですが,新しいエビデンスがつくられる際に最初は既存のEBMやガイドラインから外れているわけです.現状のエビデンスに疑問をもたないと新しいエビデンスはつくれません.今あるエビデンスを理解したうえで「やはり本当はこうなんじゃないか」と疑問に感じる臨床のセンスとそれを調べることができる能力をもっておくというのは,すごく大事だと思います.こういった幅広い臨床経験と研究マインドをもった専門医を育てていきたいと考えています.この2つを同時に身につけられるような環境をつくるために,必須と定めた症例数をある程度,抑えました.

全身管理をして命の安全を守る

—麻酔科の魅力はどのようなところでしょうか.

循環器内科医のように循環生理に詳しく,呼吸器内科医のように呼吸生理に詳しく,外科医のように解剖学に詳しいのが麻酔科医です.そして麻酔科医がもっているスキルは,患者さんの命を守ることができます.心臓を人為的に止めて,人工心肺を回して,また心臓を動かすことができるのは麻酔科医だけです.麻酔科以上に命を守れる科はありません.手術麻酔だけではなくて,術前から術後までかかわって患者さんの循環を守って,呼吸を守って,全身管理をして命の安全を守る,これが麻酔科医の魅力ですね.

今,手術がどんどん非侵襲的になってきています.ただ,非侵襲的というのは体表の穴が小さいとか穴の数が少ないというだけで,切除するべきものは切除しているわけですから体内の侵襲はあるわけです.なので,全身状態をコントロールすることができることは,今後ますます重要になっていくところだと思います.また,逆に内科手技がどんどん侵襲的になってきていて,手術室の外でも鎮静などが必要となることがあります.つまり既存の手術室の手術麻酔から枠を超えて,将来活躍できる場所がすごくたくさんあることも麻酔科医の魅力かと思います.

世界で活躍できる麻酔科医を増やす

—学会の今後の目標や方針を教えてください.

今回,新専門医制度に合わせて専門研修プログラムを整備しました.今後,学会としては専門医を取ることが最終目標とならないように,専門医を取った後もキャリアを歩めるようにしていかなくてはならないと考えています.実は,人生は専門医を取ってからの方が長いんですよね.専門医を取った後に何をするかが大事ではないかと思います.先ほど紹介した集中治療やペインクリニックなどのサブスペシャルティの専門医の取得はもちろんですが,目に見える資格以外にも,小児麻酔や心臓麻酔,産科麻酔など,いろいろなスペシャリストが育てられるようにすることを考えています.

あとは世界で活躍できる人材を育てようと,今取り組んでいます.5年程前から麻酔科学会から奨学金を出してフェローシップをつくって,アジアの国々から日本で3カ月臨床研修できる仕組みを立ち上げました.アジアの若い麻酔科医を学会全体で育てていこうと考えていて,2015年はアジアの国々から14名を受け入れました.このような国際交流をどんどんしていって,世界で活躍できる麻酔科医を育てようという試みをしています.麻酔科は他の科に比べて国による医療習慣の違いが少ないという特徴があります.麻酔科というのは治療をするところではなく,先ほど言ったように生理学や解剖学,薬理学に基づいて,命を守るところです.ぎりぎりの命にかかわることになると国を超えてもやることがそれほど変わらないんです.なので他の科に比べると世界に飛んでいきやすい.そこが非常に面白いところではないかと思うので,ぜひ国際的に活躍するプレーヤーを育てていきたいと考えています.

—専攻医に配慮した研修プログラムだけでなく,専門医取得後のキャリアについても考えられていて,麻酔科専門医の取得を考えている人は安心して研修を受けられそうですね.貴重なお話をありがとうございました.

聞き手:遠藤圭介,保坂早苗
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