各科がめざす専門医の姿

内科専門医
話し手:西川正憲 先生
藤沢市民病院診療部長/日本内科学会認定医制度審議会専門委員・専門医部会幹事

※本内容はインタビューを行った2016年5月時点の新内科専門医制度についての説明であり,2017年度の取り組みについては7月末を目処に日本内科学会HPなどを通じて案内されます.

専門分化しつつも複数の病態を診られる内科医を育てたい

—新しい内科専門医制度をつくった背景から教えてください.

話し手:西川正憲 先生

内科はこの30年くらいの間に,循環器内科,呼吸器内科,消化器内科などと,臓器別の内科として専門分化してきました.医学が発展してきたため,先端的な診療は専門分化せざるをえなくなったわけです.しかし,近年,社会の高齢化に伴って1人の患者さんが病気を複数もっていることが多くなり,患者さんの病態も複雑になってきています.そのため,専門分化した医師だけでは十分な診療をすることができていないとの懸念があります.内科学会として,国民から信頼される医療を担える内科専門医をこれからもしっかりと育成していきたいと考え,新しい内科専門医制度をつくりました.

専門分化したこと自体が悪いというわけではありません.専門分化しつつも,複数の病態をもった人たちを適切に診療し,地域に貢献できる総合内科医的な視点をもった,ある一定レベル以上の標準的な医療を提供できる内科専門医を育ててゆきたいというのが内科学会の考えです.

専門医としてのお墨付きをもらえる研修プログラム

―今までの認定内科医や総合内科専門医の研修内容と新しい内科専門医の研修内容は大きく変わるのでしょうか.

患者さんをしっかりと診療するということに関しては,全く変わりはありません.現時点では,多くの場合,臓器別内科に入局して内科研修をしています.そのこともあって,臓器別内科の疾患を診療することが多くなります.サブスペシャルティに偏重した研修の結果,それ以外の病態を敬遠し,不慣れなために「その病気は私の担当ではありません」というような事態があると聞きます.内科専門医をめざす医師は,人間として患者さんを適切に診療できるようになっていただきたいと思います.

新しい内科専門医の研修では,主担当医として「主病名」で少なくても56疾患群160症例を経験し,29の病歴要約を提出する,JMECC(日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会)を受講する,などの修了要件を設定しました.症例経験目標としては,全部で70疾患群に分けて各疾患群で少なくとも1例は必ず経験してもらい,合計で200症例以上を診療することにしています.こうすることで幅広い内科疾患を網羅的に診療することができます.病歴要約は,研修施設の指導医による校閲,形成的指導および承認を受けた後に,内科学会指定指導医の評価を受け,さらなる改善を期します.このように内科専攻医自身の病歴要約をブラッシュアップすることで,内科専門医としての思考過程と全人的に患者さんを診る能力を研鑽することができます.

JMECCは,日本内科学会が認定する標準化(どこのコースでも同じ内容を教える)された内科救急診療教育コースで,幅広い知識と経験を要する疾病救急と日常臨床で遭遇する予期せぬ容態悪化に対応する能力を実践型教育によって習得することができます.JMECCを受講することで,内科診療・総合診療に携わるすべての医師に不可欠かつ重要な診療姿勢・能力を研鑽できるようになっています.

新しい内科専門研修プログラムを修了した内科専門医は,これだけの経験をしたことになるので,医師として複数の病態に適切に対応できる,非常によい医師になれると思います.また他施設の指導医にも病歴要約を評価され承認されることは,「あなたの考え方は内科専門医のレベルにある」というお墨付きをもらったことになるので,大きな自信になります.

―内科専門医の研修では,その後のサブスペシャルティ領域の専門医の研修と1年間オーバーラップさせることができる,つまりサブスペシャルティ領域の専門医取得まで1年間短くすることができるコースもあると伺いました.

そうですね.サブスペシャルティ重点コースというコースをもつ内科専門研修プログラムもあります.一方で,内科専門研修プログラムでは,カリキュラムの知識,技術・技能を修得したと認められた専攻医には積極的にサブスペシャルティ領域専門医取得に向けた研修を開始することができます.よってサブスペシャルティ重点コースを選ばなかったとしても結果的に同じ研修内容となる可能性はあります.現在,サブスペシャルティ領域専門医の取得に不安を抱く研修医や現場の声をよく聞きます.この点は,直近の内科学会の検討でもとり上げられています.内科医も多様性があり,早くからサブスペシャルティ領域を決め,それをできるだけ早くとりたい人もいますので,まだ正式に決まってはいませんが,そういった人に配慮して,従来と同じ期間で,すなわち卒後7年目にサブスペシャルティ領域専門医がとれるように配慮することを検討しています.サブスペシャルティの研修内容はサブスペシャルティ領域専門研修カリキュラムで規定されることになります.

ここで大事なことは,内科研修の多様性が尊重されつつも,内科もサブスペシャルティも,いずれの専門医も修了要件を満たすことが求められることです.つまり,内科全般を万遍なく受けもつ基本的なコースがある一方,サブスペシャルティに重点をおいたコースがあるにせよ,修了要件自体が変わることがないということです.ただし,プログラムオリエンテッドの考え方に基づき,内科とサブスペシャルティ,それぞれの修了要件を満たした方には,スムーズな資格取得の道筋が用意され,そのオーバーラップ研修を一定の年限で縛るという考え方が見直されている状況にある,ということです.

現在のロールモデルの先生はサブスペシャルティの先生がほとんどなので,早くサブスペシャルティの専門医をとりたいと考える方は多いと思います.しかし,そこに拘泥せず,プログラム内容をよく読んで自分自身の描く医師像に合っているところを選んでほしいですね.

研修状況をWEBで管理する日本で初めてのシステム

―今後の学会の目標や方針を教えてください.

内科学会では「主病名で主担当医として経験を積む」カリキュラムを適切に整備するために,WEBを使って研修状況を管理する日本ではじめてのシステム「専攻医登録評価システム(WEB版研修手帳)」を用いて症例登録・評価を行い,研修内容を可視化することを目標としています.

このWEBシステムは,J-OSLER(Japan-Online system for Standardized Log of Evaluation and Registration)と称します.専攻医は経験した症例や受けた講習をWEBに登録していき,指導医は専攻医の研修の進行状況をWEBでチェックすることができるようになります.指導医も指導内容をWEBに登録していきますので,専攻医は自分の研修の進行状況はもちろん,自分がどのような指導を受けたかもWEBで確認することができます.WEBで管理することで,研修内容が全部残りますし,管理も容易になります.紙管理は大変で,必要な書類を探す手間もかかります.病歴要約は今までプリントアウトしたものを提出しもらっていましたが,これからはWEBで提出することができます.何らかの事情で他の地域に移り,プログラムを変更する場合でもスムーズです.専攻医だけでなく指導医の利便性も高いと思います.さらに,内科学会としては内科専門研修だけではなく,その後の研修にもつながるようなシステム作りを予定していて,複数のサブスペシャルティ領域の学会が内科学会のJ-OSLERに相乗りすることを検討しています.

―医学生や研修医の方にメッセージをお願いいたします.

「内科って研修が大変になってしまうのですか」と質問されることがあります.大変になるのではなくて,サブスペシャルティ疾患だけでなく幅広い疾患を経験して内科医としてのジェネラリティを身につけて,国民の皆さんから信頼される内科医になれる研修プログラムを経験できるようになるのです.新しい内科専門医を取得することは「あなたは内科の幅広い病態の診療経験をもっていて,あなたの考えは内科専門医レベルにあります」というお墨付きをもらうことになります.そして,内科専門医取得後にサブスペシャルティを極めるにしても,内科全般を診療するにしても,大きな自信になりますし,やってよかったと実感できるような研修プログラムばかりであると思います.

内科医の特徴と魅力は,「患者さんをよく診て,よく考えて,適切な診療ができ,人間として患者さんを診ることができること」であると思います.患者さんの生活をよりよくすることができるし,特殊な病気や複雑でわかりにくい病気を劇的に治してあげることもできます.そんな医師になりたい方は,ぜひ内科に進んでほしいですね.それを実現できる研修プログラムと安心して研修を受けられるシステムを用意して待っています.

—貴重なお話をありがとうございました.

聞き手:遠藤圭介,保坂早苗
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