スマホで読める実験医学
公開中

抗体の選び方

大久保和央
ジェノスタッフ株式会社
10.18958/6619-00040-0002532-00

連載のはじめに

免疫組織化学染色は,タンパク質の局在解析の方法として広く使われている手法です.実験の手技に特に難しいところはありませんが,選択肢を一つ間違えるとFalse Positive(偽陽性)の結果を出してしまう危険性のある方法でもあります.

私たちはこれまで18年ほどにわたって,受託サービスとして多くの研究者の皆様の免疫組織化学染色のお手伝いをしてきました.その経験から,実験の成否としてサンプル調製の重要性を痛感しています.どのような抗体を選べばよいか,どんな組織の固定方法が適切か,最適な試薬の組成まで詳細な検討を重ねて参りました.一昨年,研究者の皆様と情報を共有したいとの気持ちから,実験医学別冊「細胞・組織染色の達人」を上梓しました.出版後,多くの反響をいただき,書籍で記載できなかった免疫組織化学染色のノウハウ,コツや考え方についてQ&A形式で連載することとなりました.

この連載では全5回のシリーズで,目的の分子に特異的な染色結果を得るための,抗体の選び方,サンプル調製時や染色時の注意点,トラブルシューティングなどについて解説していきたいと思います.

免疫染色自体は基本的な実験ですが,連載の初回としてサンプリングから染色までの一般的な実験の流れを以下のフローチャートにまとめました.今回は,「抗体の選び方」について解説します.

Q1 目的の抗体がいろいろなメーカーから販売されています.市販抗体の選び方がわかりません.

A1 できるだけ実績があり,染色結果の写真が掲載されている抗体を選びましょう.

高いお金を出して買ったものは,ちゃんと使えるはず——日々の生活の中では当たり前のことですが,「抗体」については,これが全くあてはまりません.私たちの経験上,本当に目的の分子に特異的な抗体は,実感として全製品の2割程度でしょうか.研究費が潤沢であれば,とりあえず全部の製品を買って試せばよいかもしれませんが,時間的にも金銭的にも現実的ではありません.数ある製品のなかから正解を引きあてるのは非常に難しいことですが,本稿では,できるだけよい抗体を選ぶための方法を解説します.

まずは後述の1~3の手順で抗体を選んでみましょう.実際には,購入して条件検討を行うまでは,どの抗体が当たりなのかわかりません.一製品で引き当てられない場合も多々ありますので,もし余裕がある場合は時間を節約するためにも複数の抗体を購入することをおすすめします.

手順1 まず抗体の候補を検索する!

次の3点に注意して,購入する抗体の候補をインターネットで検索します.

  1. 染色対象の動物種に適応している抗体であること
  2. 免疫染色への適応が明記されている抗体であること
  3. 染色対象の動物種と免疫動物の動物種が重ならないこと

検索に適したウェブサイトはいくつかありますが,オススメなサイトは染色する対象によって少し異なります.対象に応じて以下のようなステップで,まずはできるだけたくさんの抗体の候補をあげます.

マウスなど,ヒト以外の動物が染色対象の場合

Step1 CST社のウェブサイト(https://www.cellsignal.jp/

→私たちの経験上,最も確かなデータが得られることが多いメーカーと考えていますので,最初に検索するようにしています

Step2 Abcam社のウェブサイト(https://www.abcam.co.jp/

→特にウサギモノクローナル抗体は当たりの確率が高いと思われます

Step3 フナコシ社,コスモバイオ社のウェブサイト(https://www.funakoshi.co.jp/https://www.cosmobio.co.jp/)で各種メーカーを一括検索

→フナコシ,コスモバイオの情報とメーカーの情報が異なる場合がありますので,検索後は,各抗体のメーカーのウェブサイトで情報を確認してください

Step4 Sigma-Aldrich社,ThermoFisher社のウェブサイト
https://www.sigmaaldrich.com/japan/lifescience/antibody.htmlhttps://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/antibodies.html

→フナコシ,コスモバイオのウェブサイトでは,検索できないので確認してください

ヒト組織が染色対象の場合

Step1 CST社のウェブサイト
Step2 Abcam社,Dako社,Leica社,ニチレイ社のウェブサイト

→Dako,Leica,ニチレイの3社で,Ready to useとして免疫染色用に希釈済みで販売されている製品は,ほとんど当たりです

Step3 フナコシ社,コスモバイオ社のウェブサイトで各種メーカーを一括検索
Step4 Sigma-Aldrich社,ThermoFisher社のウェブサイト

手順2 「パラフィン切片」と「凍結切片」への対応を確認する!

私たちは,特に制約がない場合は,ブロックや切片と取り扱いの容易さ,品質の安定性,再現性の高さ,切片のきれいさなどの理由から,できるだけパラフィン切片を用いて染色をしています.染色性の全くわからない抗体の場合や,目的タンパク質が表面抗原などの場合は,未固定凍結切片を選択しますが,基本的にはパラフィン切片対応の抗体を選ぶとよいでしょう.

手順3 抗体を選ぶ!

いよいよ,候補のなかから抗体を選定します.ここで私たちが最も重要視しているのは,染色実績です.以下のような基準で選ぶことをオススメします.

①染色実績がどれぐらいあるのか?

以下のサイトで検索して,一番実績がある抗体を選定します.

  • CiteAb(図1) 検索ワード:製品番号
  • Google scholar 検索ワード:製品番号+immunohisto
  • Google画像検索 検索ワード:製品番号+immunohisto

私たちの経験上,CST社の抗体は信頼度が高いので,論文での実績が少なくても選択することが多くあります.

図1 CiteAbでの検索結果
分子名で検索すると製品を探すことも可能です.

②免疫染色の結果が記載されていて,明瞭なシグナルが得られている製品を選ぶ.

細胞膜や核など,そのタンパク質に適正な場所でシグナルが得られているかも確認しておきましょう.

③染色の推奨条件(抗原賦活化条件,抗体濃度)が記載されている抗体を選ぶ.

④ウエスタンブロットの結果が掲載されている場合,目的の分子量以外のバンドが多数検出されている抗体は避ける.

ウエスタンブロットでは,分子量の違いによる染め分けができますが,免疫染色では染め分けできません.

⑤ファミリーのあるタンパク質がターゲットの場合,抗体作製時の抗原部位(ペプチド配列)を確認しておく.

情報がない場合は,メーカーに問い合わせて確認してください.染め分けできない場合もあるので注意が必要です.

その他に注意してほしいこと

①ポリクローナル抗体 or モノクローナル抗体

一般的にモノクローナル抗体の方が特異性が高いと考えられていますが,目的分子に特異的なポリクローナル抗体も多数販売されています.そのため,私たちは判断基準の優先度として,あまり重要視していません.同程度の性能,実績のあるポリクローナル抗体とモノクローナル抗体で迷っている場合は,入手の安定性からモノクローナル抗体を選びます.

②精製度

血清などで販売されている製品は,染色のバックグラウンドが高くなることが多いので,選択肢がある場合は,精製されている製品を選択します.

③標識

発色の系で染色する場合,抗体が標識されている必要はありません.標識の有無は染色に影響しませんので,免疫染色以外の実験も考慮に入れて選択してください.

ここまでで解説した抗体選択の流れについてフローチャートにまとめたので,ぜひチェックシートとして活用ください(図2).

図2 抗体選択のフローチャート

Q2 同じクローンのモノクローナル抗体が複数の会社から販売されています.選択する基準がわかりません.

A2 値段の安い製品を探しましょう.

同じクローンのモノクローナル抗体の場合は,供給元が同じ場合が多くあります.まずは,値段が安いものや,急いでいる場合は,国内在庫がある製品を選ぶとよいと思います.また,同じ製品を購入し直す場合は,まれにですが,モノクローナル抗体でもロットによって力価や染色性が異なる場合がありますので,旧ロットの製品と比較の実験を行うなどの注意が必要です.

Q3 抗体濃度が記載されていませんが,どうしたらよいですか?

A3 メーカーに問い合わせるか,ドットブロット法で測定しましょう.

Q1でご紹介したAbcam社とCST社の一部の抗体は,メーカーのウェブサイトでロット番号から確認することができます.もしCST社の抗体で,ウェブサイトで確認できない場合は問い合わせてください.

チューブやデータシートなどに濃度が記載されていない抗体は,メンブレンに直接サンプルを膜上にスポッティングして検出する「ドットブロット法」で測定しましょう.濃度がわかっている抗体をコントロールにしてドットブロットを行うことで,比活性で目的抗体の濃度を測定することができます.例えば,濃度未知のポリクローナル抗体Aの濃度を調べる実験は以下のように行います.

方法

目的の抗体:抗体A(rabbit pab),コントロール抗体(例:Normal rabbit Ig,Agilent X0936 15 mg/mL)をPBSで10倍希釈後(原液を150μg/mLとする)に,2倍階段希釈:×2,×4,×8,×16,×32,×64,×128,×256,×512,×1024,×2048,×4096程度を準備する

1μLずつメンブレン(PVDやニトロセルロースなどのメンブレン)にドット

乾燥

ブロッキング(1% Blocking Reagent,BSA等)室温30分

PBSで洗浄 室温5分

抗体反応 PO標識抗ウサギ抗体 室温30分

PBS洗浄 室温5分×3

DABで発色

限界希釈段による濃度の判定

図3の場合は,コントロール抗体から検出限界が2段低いので,150μg/mLの1/4で37.5μg/mLが抗体Aの原液の濃度になります.

図3 ドットプロット法による抗体濃度の判定

次回は,免疫染色のためのサンプルの準備について解説していきます.

大久保和央(おおくぼ かずえ):1996年,東京水産大学(現東京海洋大学)卒業.2002年,東京水産大学水族病理学研究室にて博士号(水産学)を取得.’02年にジェノスタッフ株式会社を設立.以来,免疫染色・ISHを中心とした細胞・組織染色の受託サービスや,新製品の開発に携わる.その傍ら,大学・企業などで細胞・組織染色に関するセミナーを行い,正しい結果を得るためのノウハウの普及にも取り組んでいる

免疫染色の達人が答えるトラブル解決Q&A100
免疫染色の達人が答えるトラブル解決Q&A100

Q&A形式であなたの「染まらない」を解決! 工程ごとに原因を切り分け,泥沼にはまる前に対処するコツを伝授します.現場を知り尽くした国内随一の技術者集団・ジェノスタッフ社のノウハウを結集した書籍の第2弾.

関連書籍

実験医学 2020年7月号

環境因子と発がん

喫煙・肥満・アスベストによるがん発生機構からがんの“予防”に挑む

  • 戸塚ゆ加里/企画
  • 定価:2,200円(本体2,000円+税)