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教科書の変遷から「分子生物学」を考える:第1回 生命の科学の始まり

中村桂子
JT生命誌研究館名誉館長
10.18958/7971-00035-0006411-00

今や生物学と言えば,基本は分子生物学と言ってよいでしょう.この学問の歴史はほぼ100年(正確には90年).学問の歴史としてはそれほど長いとは言えない時間に急速な展開をしました.その中で生まれた『細胞の分子生物学』1)という,みごとな教科書を通して考えた21世紀の生命研究の歴史とこれからが本稿のテーマです.

「教科書」という言葉で,まず思い出すのが小学校4年生の時の体験です.1945年8月15日に太平洋戦争が敗戦という形で終わりました.2学期になって学校へ行ったら,最初に指示されたのが,「教科書の墨塗り」でした.それまで,先生は「教科書は日本人として学ぶべきことが書いてあり,あなたにとって一番大切なもの」とおっしゃっていました.その同じ先生が,「教科書にあるこの部分は間違いなので墨で消しなさい」と指示されるのですから,「これって一体何?」です.全部を黒くするページも少なくありませんでした.ふしぎな気持ちになって当然です.私が大人になってから権力や権威には意味を持たせないという生き方をしてきた原因は,多分この体験にあるのでしょう.

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