実験医学 2010年12月号 Vol.28 No.19

代謝と老化・寿命を結ぶ

サーチュイン研究の最前線

The 10th Anniversary of Sirtuin Biology

  • 今井眞一郎,Leonard P. Guarente/企画
  • 2010年11月22日発行
  • B5判
  • 141ページ
  • ISBN 978-4-7581-0066-3
  • 定価:1,980円(本体1,800円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

SIR2(silent information regulator 2)ファミリー(サーチュイン)のNAD依存性脱アセチル化酵素活性の発見から10年が経ち,タンパク質の脱アセチル化とエネルギー代謝の間にある数多くの興奮に満ちた関係が明らかにされてきた.サーチュインの重要性は,さまざまな栄養・環境刺激に対する多くの基本的な生物学的応答の制御において,確固たるものとなってきている.サーチュインはまた,モデル生物における老化・寿命の重要な制御因子としても認識されるに至っている.サーチュインがもつNADを絶対的に要求するという性質が,哺乳類におけるNAD合成系の研究に対する興奮を再び呼び起こすことにもなってきている.さらには,サーチュインを標的とした老化関連疾患に対する創薬あるいは栄養学的方法論が,今や目前のものとなりつつある.本特集では,こうしたサーチュイン研究の最近の進歩,特に哺乳類サーチュインの生物学における進歩を概括し,サーチュイン,代謝,そして2型糖尿病のような老化関連疾患との関係を再評価することで,次の10年間におけるサーチュイン研究の里程としたい.

実験医学12月号onlineインタビュー~The 10th Anniversary of Sirtuin Biology~

長寿遺伝子としても注目を浴びるサーチュイン.SIRT1〜7が全身性ネットワークを通して制御するメタボリズムの分子機構から,レスベラトロール等によるサーチュイン活性化の機序,創薬への展開まで

目次

特集

代謝と老化・寿命を結ぶ
サーチュイン研究の最前線
The 10th Anniversary of Sirtuin Biology
企画/今井眞一郎,Leonard P. Guarente
概論-10周年を迎えたサーチュインの生物学【今井眞一郎/Leonard P. Guarente】
SIR2(silent information regulator 2)ファミリー(サーチュイン)のNAD依存性脱アセチル化酵素活性の発見から10年が経ち,タンパク質の脱アセチル化とエネルギー代謝の間にある数多くの興奮に満ちた関係が明らかにされてきた.サーチュインの重要性は,さまざまな栄養・環境刺激に対する多くの基本的な生物学的応答の制御において,確固たるものとなってきている.サーチュインはまた,モデル生物における老化・寿命の重要な制御因子としても認識されるに至っている.サーチュインがもつNADを絶対的に要求するという性質が,哺乳類におけるNAD合成系の研究に対する興奮を再び呼び起こすことにもなってきている.さらには,サーチュインを標的とした老化関連疾患に対する創薬あるいは栄養学的方法論が,今や目前のものとなりつつある.本特集では,こうしたサーチュイン研究の最近の進歩,特に哺乳類サーチュインの生物学における進歩を概括し,サーチュイン,代謝,そして2型糖尿病のような老化関連疾患との関係を再評価することで,次の10年間におけるサーチュイン研究の里程としたい.
疾患過程におけるサーチュインの役割と創薬標的としての可能性【David A. Sinclair】
サーチュイン(Sirtuin)として知られる酵素ファミリーは,出芽酵母において ,遺伝子サイレンシングを調節し,酵母の老化の原因であるゲノム不安定性を抑制するヒストン脱アセチル化酵素として最初に同定された.それ以降,サーチュインはすべての生命体で見出され,一貫してストレスや老化から保護するように働くことが示されている.哺乳類には,7つのサーチュイン(SIRT1~7)があり,これらの哺乳類サーチュインは,環境を感知して,健康を増進する経路を調節する.この経路には,糖・脂質代謝,アポトーシス,DNA修復,神経新生,そして炎症にかかわるものが含まれている.これらの酵素が,運動やカロリー制限がもたらす数多くの健康上の恩恵においても,重要な役割を果たすことを示す証拠が蓄積されつつある.低分子化合物を用いたサーチュインの制御は,疾患や老化に対する生体内の自然防御を惹起させる薬理学的なアプローチとなりうる.
SIRT3とミトコンドリアタンパク質のアセチル化【Eric M. Verdin】
サーチュインは加齢,ストレス耐性および代謝を制御する重要なタンパク質であり,そのうちSIRT3,SIRT4,SIRT5の3つのサーチュインはミトコンドリアのマトリクス内に存在する.SIRT3はNAD+依存性脱アセチル化酵素で,リジン残基がアセチル化されたタンパク質からアセチル基を取り除き,O-アセチルADPリボース(2'-O-acetyl-ADP ribose)とニコチンアミドを産生する.多くのミトコンドリアタンパク質はアセチル化されており,そのアセチル化レベルは栄養状態により調節されている.SIRT3の脱アセチル化活性の標的タンパク質が同定されたことで,ミトコンドリアサーチュインが脱アセチル化により代謝系酵素の活性を調節するセンサーとして働いているとするモデルに支持が与えられることになった.本稿では,近年のSIRT3研究の進展と,絶食時におけるミトコンドリアタンパク質のアセチル化制御について論じる.
SIRT4の酵素活性と生物学的機能【Gaëlle Laurent/Natalie J. German/Marcia C. Haigis】
サーチュインは,種を越えて高度に保存されたタンパク質脱アセチル化酵素およびADPリボース転移酵素ファミリーであり,老化やストレス応答,そして代謝調節に重要な役割を果たしている.哺乳類には7つのサーチュイン(SIRT1~7)があり,細胞内局在や基質特異性,生物学的機能によりそれぞれ特徴づけられる.特にSIRT3~5の3種のサーチュインはミトコンドリアのマトリクスに存在し,ミトコンドリア内におけるさまざまな代謝を調節している.本稿では,SIRT4の酵素活性と生物学的機能を理解するうえで,最近の進展について議論を進めたい.
SIRT5の尿素回路における役割【中川 崇/Leonard P. Guarente】
SIRT5はミトコンドリアに局在する,哺乳類サーチュインファミリーの一員であり,他のサーチュインと同様,NAD依存性の脱アセチル化酵素活性をもつ.近年,われわれはSIRT5の生理的基質として,尿素回路の酵素であるCPS1 (carbamoyl phosphate synthetase 1)を同定し,SIRT5が栄養状態の変化に対応して,尿素回路の制御にかかわっていることを明らかにした.本稿では,現在までに明らかとなっているSIRT5の分子的基盤,ならびに生体内での役割について,最近の知見を交え概説する.
脱アセチル化酵素SIRT6とクロマチン・メタボリズム・老化との関連について【來生(道下)江利子/Ruth I. Tennen/Katrin F. Chua】
サーチュイン(Sirtuin)のノックアウトマウスのなかでも,SIRT6のノックアウトマウスは最も顕著な老化様症状を示すが,その分子機構は長い間不明であった.しかし最近,SIRT6が特異的ヒストンの脱アセチル化酵素であることが発見され,テロメアと染色体の維持,DNA修復,代謝制御,そして転写制御と実にさまざまな生命現象にかかわっていることが次々に明らかにされている.本稿では,SIRT6の最近の知見に加え,老化や疾患とのかかわりについて紹介する.
哺乳類サーチュインSIRT1による中枢性エネルギー代謝と老化・寿命の制御【佐藤亜希子/今井眞一郎】
われわれの研究室ではこれまで「NADワールド」の概念を基盤として,老化過程における脆弱点の1つである膵β細胞を中心としてSIRT1およびNAD合成系の機能解析を行い,その代謝・老化における重要性を明らかにしてきた.次にわれわれは,もう1つの脆弱点として重要視されてきた脳におけるSIRT1の機能解析を進めていくため,広範な種において寿命延長効果を示す唯一の方法として知られているカロリー制限(CR)の効果に着目して研究を行った.その結果,視床下部背内側野(DMH)と外側野(LH)におけるSIRT1が,CR時における中枢性代謝制御において重要な役割を果たしていることを見出した.SIRT1の発現量または活性をこれらの領域において増大させることは,老化関連疾患の予防・治療,ひいては老化・寿命をコントロールする新たな方法論として多いに期待される.

トピックス

カレントトピックス
転写因子Bcl11bはT細胞系列への運命決定に必須である【伊川友活/河本 宏】
がんの悪性化における細胞分化シグナルの役割【伊藤貴浩/Tannishtha Reya】
短鎖ペプチドによる転写因子Shavenbabyの活性制御【近藤武史/影山裕二】
移植神経幹細胞由来ニューロンによるマウス損傷脊髄神経回路網の再建【棈松昌彦/中島欽一】
News & Hot Paper Digest
~2010年 ノーベル賞紹介~
ノーベル医学生理学賞:家族・社会へ寄り添う科学の誕生【阿久津英憲】
ノーベル化学賞:パラジウム触媒を用いたクロスカップリング法【長田裕之/清水 猛】
オンラインゲームでプレイしてNature論文の著者になる?【田口英樹】
セサミストリートの人気者「エルモ」と体外受精技術【妹尾 誠】
Novartis社のGilenya®,米国初の経口剤MS治療薬として承認される【MSA Partners】

連載

クローズアップ実験法
大規模シークエンサー解析用ヒトゲノム標的配列濃縮法【中野正和/田代 啓】
プレゼンテーション スライド作成講座
「わかりやすく」を考える【堀口安彦】
バイオ研究 耳よりツール
細胞情報解析に役立つツール【千葉啓和/藤渕 航】
私のメンター ~受け継がれる研究の心~
Alfred Singer―天才的理論構築でT細胞の分化機構を解明【中山俊憲】
Campus & Conference探訪記
第22回 高遠シンポジウム「生体制御の仕組み―限界への挑戦」【高橋淑子】
ラボレポート ―留学編―
コミュニケーションとは?―MRC centre for developmental neurobiology/King’s college London【松本 健】
Opinion ―研究の現場から
国際コンペティションに参加してもたらされる創造性と大学の役割【齊藤博英】

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