実験医学 2011年8月号 Vol.29 No.13

分子・細胞から解明する 肝臓のバイオロジー

発生・再生の分子機構に迫る生物モデルと肝疾患治療法の開発

  • 宮島 篤/企画
  • 2011年07月20日発行
  • B5判
  • 129ページ
  • ISBN 978-4-7581-0074-8
  • 2,200(本体2,000円+税)
  • 在庫:なし
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《企画者のことば》

肝臓は糖,アミノ酸,脂質など各種生体構成成分の代謝機能,薬物代謝,胆汁産生,血漿タンパク質の産生などきわめて多彩な機能を備えた生命の維持に必須の臓器である.肝臓が生命の源であることは太古の時代から知られていた.古代バビロニアで生け贄の羊や山羊の肝臓を使った占いhepatoscopyが行われていたことは,当時の人々が肝臓の重要性を認識していたことの証左といえよう…(序にかえてより)

唯一の「再生する臓器」肝臓のもつ強力な再生能,重要シグナル系と連動した代謝の拠点としての働きを,分子の視点から解明する.肝胆膵の発生機序における新知見,NASH,肝癌など肝関連疾患の治療戦略も網羅

目次

特集

分子・細胞から解明する 肝臓のバイオロジー
発生・再生の分子機構に迫る生物モデルと肝疾患治療法の開発
企画/宮島 篤
肝臓にサイエンスはあるか?【宮島 篤】
肝臓は糖,アミノ酸,脂質など各種生体構成成分の代謝機能,薬物代謝,胆汁産生,血漿タンパク質の産生などきわめて多彩な機能を備えた生命の維持に必須の臓器である.肝臓が生命の源であることは太古の時代から知られていた.古代バビロニアで生け贄の羊や山羊の肝臓を使った占いhepatoscopyが行われていたことは,当時の人々が肝臓の重要性を認識していたことの証左といえよう…(序にかえてより)
細胞間相互作用による肝幹細胞の発生・分化の制御機構【伊藤 暢/田中 稔】
肝臓は,代謝や生合成,解毒などの実質的な機能を担う肝細胞と,これをとりまく種々の非実質細胞群とから構成される.近年,これらの肝構成細胞群の間での相互作用が,肝臓の発生・分化,恒常性維持あるいは病態において,きわめて重要な役割を果たすことが明らかとなりつつある.そのような解析の基盤となるのは,個々の細胞群を同定・分離する技術と,それらを培養する系の確立である.本稿では,肝臓の構造と構成細胞群について概説したのち,肝細胞の起源となる胎仔期の肝幹細胞を題材として,細胞間相互作用の様態の事例を紹介する.
肝・膵・腸管維持にかかわるSox9領域からの持続的細胞供給【川口義弥】
Inducible Cre-loxPを用いた細胞系譜解析により,成体肝臓・膵臓外分泌組織・腸管は樹状構造を呈する胆管・膵管,さらには十二指腸乳頭部を介して腸管陰窩の幹細胞領域とつながる一連のSox9領域より持続的な細胞供給を受けて維持されていることがわかった.生理的臓器維持のみならず,さまざまな肝障害後の再生現象においてもSox9前駆細胞からの新規肝細胞分化が促進されることも観察された.さらに,胎生期にはじまる臓器形成過程におけるSox9細胞のふるまいを解析した結果,組織構築形成にともなう幹細胞システム変換(胆管形成に伴うSox9-肝芽細胞からSox9幹細胞への変換,膵島形成に伴う胎生膵Sox9細胞の内分泌細胞分化能の喪失)が観察された.以上の結果より,「組織構造と機能・幹細胞システムには関連がある」という新たな概念を導くことができる.
メダカとゼブラフィッシュを用いた肝研究【浅岡洋一/仁科博史】
大規模スクリーニングが可能な小型魚類メダカおよびゼブラフィッシュを用いて,これまでに多様な肝形成・肝機能不全変異体が単離されている.そのなかには既知のノックアウトマウスとは異なる表現型を示す興味深い変異体も数多く含まれる.変異体の単離から原因遺伝子の同定への流れがますます加速するなかで,小型魚類は肝形成のシグナル伝達ネットワークの分子基盤の解明ならびに創薬スクリーニングによる医薬品の開発に大いに貢献することが期待されている.
肝細胞の不均一性と肝代謝制御【合田亘人/金井麻衣】
肝臓は体内における代謝の中心臓器であり,その機能は実質細胞の肝細胞が担っている.肝細胞は小葉内の局在部位によって異なる代謝能を示し,また一方で食餌摂取やホルモンなどの外的要因に応答してダイナミックに代謝能を変化させうる.現在,細胞シートなどを用いた再生医療に大きな期待が寄せられているが,肝代謝機能を補完するためには小葉内代謝領域特異性(metabolic zonation)を考慮する必要がある.しかし,近年までその代謝領域特異性を規定する分子機構についてあまりよくわかっていなかった.本稿では,その成り立ちにかかわる分子機構として最近注目されているWnt/β-cateninシグナルとHIFシグナルについて,最近の知見を交えて解説する.
オートファジーの破綻と肝疾患発症機構【小松雅明】
オートファジーは莫大な量の細胞質タンパク質やオルガネラを取り囲んだオートファゴソームがリソソームと融合することにより執行されるバルク(大規模かつ非選択的)な分解経路である.1990年代の出芽酵母におけるオートファジー必須遺伝子ATG(autophagy-related genes)の同定以降,さまざまなモデル生物において遺伝学的解析が行なわれ,多彩なオートファジーの生理機能が明らかになった.本稿では,肝臓特異的Atg欠損マウスから判明したオートファジーの生理機能とその破綻による病態を中心に概説する.
肝癌幹細胞とその治療標的化【畠野尚典/原口直紹/石井秀始/永野浩昭/土岐祐一郎/森 正樹】
癌幹細胞は癌組織の根源とされ,腫瘍の大部分を占める非癌幹細胞とは異なり,自己複製能・多分化能・造腫瘍能を有する.加えて癌幹細胞は抗癌剤や放射線治療に対して耐性を有し,癌治療における本質的なターゲットとして認識されつつある.われわれは,肝癌幹細胞の新規機能性マーカーであるCD13を同定した.CD13細胞は,高い造腫瘍能・自己複製能・抗癌剤耐性・放射線耐性能を有し,さらに活性酸素種の排泄機構にかかわっており,CD13の抑制により細胞内の活性酸素種が上昇しアポトーシスが誘導される.こういった癌幹細胞を標的とした治療への応用が期待される.
肝星細胞を標的とした肝硬変の治療戦略【新津洋司郎/尾留川直子/佐藤康史】
肝星細胞は,肝が傷害されると増殖し,コラーゲンを生産することから,肝硬変の責任細胞と考えられている.ここ数年同細胞の機能あるいは増殖(生存)を阻害する肝硬変の治療戦略が報告されるようになった.しかし,それらの多くは標的分子特異性あるいは星細胞特異性という点で問題があり臨床応用に至っていない.われわれは,星細胞がVA(ビタミンA)を取り込むという事実に着目し,VAを表出しているリポソームを作成したうえでコラーゲンの特異的シャペロンタンパク質に対するsiRNAをそのなかに含有させた薬剤を開発した.この薬剤は全身投与によりラットの肝硬変モデルにおいてきわめて高い有効性を示した.その治療効果には星細胞からのコラーゲン分泌抑制以外に同細胞がアポトーシスに陥るというメカニズムが関与していた.

Update Review

アセチローム解析から見えてきたタンパク質修飾の新しい意味【松田 (古園) さおり/伊藤昭博/吉田 稔】

トピックス

カレントトピックス
プロテアソームによるタンパク質分解に必要な分解シグナルの配置【伊野部智由】
Wnt作動薬R-spondin1は腸幹細胞を保護して全身性移植片対宿主病を軽減する【髙嶋秀一郎/豊嶋崇徳】
線虫の子宮・陰門形成における組織境界は基底膜の移動と接着分子により制御される【伊原伸治/David R. Sherwood】
アストロサイトからニューロンへの乳酸の輸送は長期記憶形成に必須である【鈴木章円/Cristina M. Alberini】
News & Hot Paper Digest
オートファジーに対抗するミトコンドリアの戦略【武田弘資】
アダムとイブの争い:第一章【妹尾 誠】
新しいバイオフィルム制御法【古川壮一】
多発性硬化症の最初の病変は脱髄ではなく軸索変性である【平井宏和】
慢性疲労症候群とXMRVの関係を疑問視する2件の研究結果【MSA Partners】

連載

クローズアップ実験法
線形アンチセンスプローブを用いた生細胞内の内在性mRNAの蛍光イメージング【岡部弘基】
ライフハック活用術
「クラウド」をもち歩く【阿部章夫】
バイオテクノロジーの温故知新
遺伝子クローニングの歴史【濱田博司】
ラボレポート ―独立編―
韓国でサイエンスライフ ―Center for Functional ConnectomicsKorea Institute of Science and Technology【田中(山本)敬子/山本幸男】
Opinion ―研究の現場から
どう捉える?「国民との科学・技術対話」【加納 圭】

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