実験医学:なぜ、いま核酸医薬なのか〜次なる創薬モダリティの本命
実験医学 2019年1月号 Vol.37 No.1

なぜ、いま核酸医薬なのか

次なる創薬モダリティの本命

  • 井上貴雄/企画
  • 定価:2,000円+税
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概論

核酸医薬ーオリゴ核酸が生み出す多彩な機能
Oligonucleotide therapeutics: Diverse functions regulated by oligonucleotides

井上貴雄
Takao Inoue:National Institute of Health Sciences(国立医薬品食品衛生研究所)

低分子医薬や抗体医薬による創薬シーズの枯渇が危惧されるなか,オリゴ核酸を基本骨格とする「核酸医薬」が新しい創薬モダリティとして注目を集めている.本特集では,概論において核酸医薬の全体像を概説した後,代表的な核酸医薬であるアンチセンス,siRNA,アプタマー,CpGオリゴの開発状況を紹介する.さらに,核酸医薬開発と密接に関連する基盤技術として,DDS(体内動態),RNAデータベース,RNA検索技術をとり上げる.本企画により核酸医薬の包括的な理解が進み,関連する研究領域との有機的な相互作用が生まれることを期待したい.

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 はじめに



アンチセンス,siRNAに代表される核酸医薬は,これまで治療が難しかった遺伝性疾患や難治性疾患に対する新しい創薬モダリティ(治療手段)として注目を集めている.従来の核酸医薬開発では生体内における安定性や有効性に課題があったが,修飾核酸技術やDDS技術が進展したことで状況は一変しており,局所投与のみならず,全身投与でも高い効果を発揮する候補品が次々と開発されている.核酸医薬は抗体医薬と同様に高い特異性と有効性が期待される一方で,低分子医薬と同じく化学合成により製造することができる.また,核酸モノマーが連結した「オリゴ核酸」という共通の構造を有すること,有効性の高いシーズ(核酸配列)を短期間で取得できること,得られたシーズがそのまま(あるいは短いステップで)臨床開発品になることなどから,一度開発スキームが完成すれば,創薬標的が変わっても,迅速に開発を進めることが可能と考えられる.実際に,これらの利点が「実用化」という形で顕在化してきており,2018年10月現在,8つの核酸医薬が上市されている(表1).このうち,表1の3番目に示したmipomersen(Kynamro)と7番目のinotersen(Tegsedi)はともにアンチセンス医薬開発のリーディングカンパニーであるIONIS社で開発されたものであり,両者の配列は当然異なるが,塩基長(20塩基長),修飾核酸の種類と導入様式(2′-MOE搭載S化Gapmer:5+10+5),標的臓器(肝臓)および投与方法(皮下注)は同じであり,まさに迅速開発の好例である.本稿では,核酸医薬を構成するオリゴ核酸が生み出す多彩な機能とその優位性を紹介するとともに,核酸医薬の今後の展望を議論したい.

本特集内では薬の名称は,初出の箇所にて「一般名(商品名)」の表記,以降の箇所は「一般名」にて表記する.

核酸医薬の分類と優位性



核酸医薬とは一般に,「(修飾)核酸が十〜数十塩基連結したオリゴ核酸で構成され,遺伝子発現を介さず直接生体に作用するもので,化学合成により製造される医薬品」を指す.この定義は同じ核酸で構成される遺伝子治療薬が「数千塩基以上の天然核酸で構成され,遺伝子発現を介して作用し,生物学的に製造される製品」であることと対照的であり,また,無細胞系で酵素的に合成され,遺伝子発現を介して機能するmRNA医薬とも区別できる.核酸医薬は前述の定義,簡単にいえば「オリゴ核酸で構成される医薬品」の総称であり,構造,標的,作用部位,作用機序などの違いからさまざまな種類が存在する(表2).本稿では核酸医薬をわかりやすく分類するため,「RNAを標的とするか,タンパク質を標的とするか」に着目して議論する(概念図).RNAを標的とする核酸医薬としてはアンチセンスとsiRNAが代表的である.アンチセンス医薬の標的はpre-mRNA,mRNA,miRNAと幅広く,また,作用機序についても修飾核酸の特性をうまく利用し,RNA分解,スプライシング制御,miRNA阻害と多彩である.siRNA医薬はRNA干渉(RNAi)により標的mRNAを分解することで有効性を発揮し,その強力かつ持続的な作用が魅力である.一方,タンパク質を標的とする核酸医薬としては,抗体医薬と同様に標的タンパク質の立体構造を認識して結合し,その機能を阻害するアプタマー,ならびにToll様受容体9(TLR9)を介して自然免疫系を活性化するCpGオリゴが知られている.


オリゴ核酸で構成される核酸医薬の優位性は何か.1つ目としては,RNA鎖に相補結合するという特性を生かして,創薬標的をRNAレベルで制御できる点があげられる(概念図).タンパク質を標的とする低分子医薬や抗体医薬は,標的タンパク質の局在や薬効評価の観点から創薬対象が大きく限定されるが,RNAを標的とする核酸医薬は原理的にはすべての分子が創薬対象(制御可能)となる.RNAを標的にすることにより,従来の医薬品ではできなかった「疾患の原因となる分子をなくす(ノックダウンする)」ことがはじめて可能になり,実際に前述の2つのアンチセンス医薬(mipomersen,inotersen)ならびにsiRNA医薬patisiran(Onpattro)がノックダウンを基本原理とする核酸医薬として承認されている(表1山口・小比賀の稿山田の稿).また,スプライシングを変化させることで機能的なタンパク質を新たにつくり出す手法もRNAと相補結合できるオリゴ核酸ならではの作用機構であり,この機序で機能するアンチセンス医薬としてeteplirsen(Exondys 51)とnusinersen(Spinraza)が承認されている(表1山口・小比賀の稿).

以上に示した「タンパク質の量を減らしたり,増やしたりする手法」はpre-mRNAやmRNAを標的としたものであるが,オリゴ核酸はセントラルドグマにのらない非コードRNA (miRNA,long noncoding RNA等)についても標的にすることが可能であり,この点も核酸医薬の大きな優位性である(概念図).非コードRNAを対象とした創薬としては,現状では病態との関連が明らかにされているmiRNAに対して,その機能を阻害するアンチセンス(表2:miRNA阻害)と機能を増強するmiRNA(表2:miRNAの補充)が開発されており1),それぞれ最もステージが進んだ開発品が第2相試験の段階にある.この領域は今後の非コードRNA 研究の進展とともに創薬対象が大きく拡大していくことが期待される.

タンパク質を標的とするアプタマーについてはpegaptanib(Macugen)が承認されており,現在も複数の候補品について臨床試験が行われている(表1藤原・中村の稿).細胞外あるいは細胞表層にあるタンパク質と結合してその機能を阻害するアプタマーは,原理的に抗体医薬と競合するため,オリゴ核酸の優位性をどのように生かすかが今後の鍵になると思われる.アプタマーが化学合成により製造されることから,例えば体内動態を変化させるリガンドを組込むなど薬効本体に付加価値をつけやすいこと,また,核酸医薬の普及とともに今後製造コストが下がっていくことが利点になると考えられる.また,他の核酸医薬にも共通する優位性であるが,核酸医薬はオリゴ核酸で構成されるため,その相補鎖を導入することにより過剰な薬理作用を中和することができるという利点があり,少なくともアプタマーとsiRNAについてはその有用性が示されている2)〜4)

TLR9に作用するCpGオリゴは生体防御機構,すなわち,「細菌の侵入をシトシン-グアニン配列(CpGモチーフ)をもつオリゴ核酸としてTLR9が感知し,自然免疫系を活性化する機構」を意図的に刺激するものであり(小檜山・石井の稿),オリゴ核酸-TLRという特異的な認識機構を利用しているという点でオリゴ核酸の優位性は言うまでもない.オリゴ核酸を認識するパターン認識受容体はTLR9以外にも存在しており5),同様のアプローチでの創薬も検討されている.

以上のように,オリゴ核酸はその物理化学的特性から,生体に備わったさまざまな分子を介して多彩な機能を発揮することが可能である.この「オリゴ核酸が生み出す多彩な機能」は生体における「分子機構の理解」と「分子機構に合わせたオリゴ核酸の最適化」が進むにつれて多様性を増していくと考えられ,今後も新しいコンセプトの核酸医薬が生まれることが期待される.

なぜ,いま核酸医薬なのか


核酸医薬の起源を仮に,「オリゴ核酸を用いて意図的に生体機能を制御する試み」と定義した場合,1978年に発表されたアンチセンスによるRNAウイルスの複製阻害がその起源の一つと考えられる6).それから20年のときを経た1998年,サイトメガロウイルス性網膜炎に対するアンチセンス医薬fomivirsen(Vitravene)が世界初の核酸医薬として承認された(表1).同じ1998年には線虫C. elegansにおいて「RNAi」が発見されており,その20年後にあたる2018年に世界初のRNAi(siRNA)医薬patisiranが誕生している.このpatisiranは脂質ナノ粒子に封入された製剤であり,送達キャリアを搭載したはじめての核酸医薬としても注目された.直近の2016〜2018年はCpGオリゴを含む5つの核酸医薬が立て続けに上市された時期でもあり(表1),核酸医薬がコンスタントに実用化されるフェーズに到達したことを印象づけた.以上のように,核酸医薬の歴史を振り返ると,1978年-1998年-2018年と20年ごとに大きな節目を迎えており,本書が発行される「2019年1月」は新たな20年のスタート地点,まさに「次なる創薬モダリティの本命」としての第一歩を踏み出すところである.

なぜ,いま核酸医薬なのか――本書はこの記念すべきタイミングにおいて,「核酸医薬の現状を幅広い分野の研究者に知ってもらいたい」という意図で企画された.承認例のある核酸医薬にフォーカスし,アンチセンス(山口・小比賀の稿),siRNA(山田の稿),アプタマー(藤原・中村の稿),CpGオリゴ(小檜山・石井の稿)について,それぞれ開発の歴史,作用メカニズム,近年の開発動向を紹介して頂いた.もうひとつは,核酸医薬開発の次の20年を見据え,「今後さらに重要性が高まると考えられるトピックを紹介したい」という趣旨である.具体的には,体内動態/DDS(西川の稿),RNAデータベース(廣瀬らの稿),RNA配列検索技術(内藤の稿)をとり上げ,それぞれの分野をわかりやすく解説していただいた.以降ではこれらのトピックに触れながら,核酸医薬開発の今後の展望を議論したい(誌面の関係上,以降はRNAを標的とする核酸医薬に限定して述べる).

核酸医薬開発の課題と展望


冒頭で述べたように,核酸医薬は標的RNAの配列に基づき,有効性の高いオリゴ核酸を短期間で取得することが可能であり,また,適切な対象疾患/標的組織を選定すれば,医薬品として十分な有効性が得られる技術レベルに達している.今後の課題としては,この「対象疾患/標的組織」をどのように拡大していくかであり,このためには,オリゴ核酸が到達する標的組織の幅を広げていくこと,また,オリゴ核酸に相応しい新たな標的分子を発掘していくことが重要と考える.

標的臓器については,現状では全身投与されたオリゴ核酸が肝臓や腎臓に集積しやすい性質を利用し,肝臓を標的とする核酸医薬の開発が中心である.これに対し,脂質ナノ粒子,高分子ミセル,リガンドコンジュゲート等の技術を用いて標的組織を拡大する試みが国内外で行われているが,品質管理や利便性(投与法)の観点から優位性のあるリガンドコンジュゲートが近年特に注目されている.リガンドコンジュゲートの成功例としては,siRNA医薬開発のリーディングカンパニーであるAlnylam社が開発するGalNAc-siRNAコンジュゲートが知られており(西川の稿山田の稿),このタイプのsiRNAがこの数年で複数品目が承認されると予想される.

一方,「新たな標的分子の発掘」の観点では,完全長のpre-mRNAや非コードRNAを包括的したRNAデータベースの整備が不可欠である(廣瀬らの稿).技術革新が続く次世代シークエンサーを駆使し,標準的なヒトRNAデータベースを整備するとともに,病態との紐付けを早期にスタートすることが肝要と考える.すなわち,現状ではAMEDが主導するプロジェクト等で「DNAとフェノタイプ」の関連が整備されているが,次の20年を見据えると今後はさらに「RNAとフェノタイプ」の関連を創薬基盤として整備していくことが望まれる.RNAの配列データは核酸医薬の非臨床試験(有効性・安全性の検証)の結果を解釈する際にも重要であることから,試験動物についてもRNAデータベースの整備が求められており,日本ではすでにその取り組みがはじまっている.以上のように,標的RNAの発掘にしても,有効性・安全性評価の解釈にしても,包括的RNAデータベースの整備が不可欠であるが,これに加えて,膨大なRNA配列のなかからオリゴ核酸と相補する配列を漏れなく抽出する,高精度なRNA検索技術が必要である.特に,核酸医薬に特有の毒性発現の懸念から,ハイブリダイゼーション依存的オフターゲット作用(いわゆるオフターゲット効果)をインシリコに予測することが重要である.インシリコ予測の成否にはRNA検索技術が良し悪しが大きく影響することを内藤の稿で御確認いただきたい.

おわりに


これまで概念としては理解されていたが,まだまだ「夢のくすり」と思われていた核酸医薬――その核酸医薬が「次なる創薬モダリティの本命」として変貌を遂げている.この現状を基礎から臨床まで幅広い分野の研究者に知って頂くことで,さまざまな専門分野の視点から新しい切り口が生まれ,日本発の独創的な核酸医薬研究につながっていくと期待している.例えば,前述した「新たな標的分子の発掘」については,siRNAを使った基礎研究の成果がそのまま創薬シーズにつながったり,病態の分子機構をよく知る臨床研究者(医師)がオリゴ核酸を用いた治療戦略を思いついたりと,意外なところから新しい核酸医薬開発が生まれる可能性を秘めている.本企画を契機に,そのような例が1つでも生まれば幸いである.

文献

  • Rupaimoole R & Slack FJ:Nat Rev Drug Discov, 16:203-222, 2017

  • Rusconi CP, et al:Nature, 419:90-94, 2002

  • Powell Gray B, et al:Proc Natl Acad Sci U S A, 115:4761-4766, 2018

  • Zlatev I, et al:Nat Biotechnol, 36:509-511, 2018

  • Schlee M & Hartmann G:Nat Rev Immunol, 16:566-580, 2016

  • Stephenson ML & Zamecnik PC:Proc Natl Acad Sci U S A, 75:285-288, 1978


参考図書

  • 「平成27年度特許出願技術動向調査報告書 核酸医薬」,特許庁,2016

  • 「2016年版 世界の核酸医薬品開発の現状と将来展望」,シード・プランニング社
,2016

  • 「核酸医薬の創製と応用展開」(和田 猛/監修),シーエムシー出版,2016

  • 「特集:核酸医薬品の進歩と課題」,医学のあゆみ,Vol 262,No 2,2017

  • 「特集:核酸医薬の現状と展望」(横田隆徳/企画),最新医学,Vol 73,No 6,2018

著者プロフィール

井上貴雄:国立医薬品食品衛生研究所遺伝子医薬部第2室(核酸医薬室)室長.1998年東京大学薬学部卒業,2003年東京大学大学院薬学系研究科博士後期課程修了,同年4月より東京大学大学院薬学系研究科助教.’11年10月,国立医薬品食品衛生研究所(国立衛研)に異動,’13年10月に国立衛研に核酸医薬を所掌する室が新設され,室長に着任.’14年10月より日本医療研究開発機構(AMED)設立準備室を併任.’15年4月よりAMEDに出向し,レギュラトリーサイエンス研究の予算配分を担当(規制科学・臨床研究支援室:室長).’17年6月に現職に復帰.専門分野は分子生物学,生化学,遺伝学.核酸医薬の品質・安全性評価,毒性低減,細胞内取り込み機構に関する研究を行っています.

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