実験医学:CRISPR最新ツールボックス〜高効率・高精度なゲノム編集から遺伝子座の制御・検出まであなたの研究を拡張する!
実験医学 2021年5月号 Vol.39 No.8

CRISPR最新ツールボックス

高効率・高精度なゲノム編集から遺伝子座の制御・検出まであなたの研究を拡張する!

  • 山本 卓,佐久間哲史/企画
  • 2021年04月20日発行
  • B5判
  • 137ページ
  • ISBN 978-4-7581-2543-7
  • 定価:2,200円(本体2,000円+税)
  • 在庫:あり
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概論

ゲノム編集ツール開発の最新動向
Recent trends in the development of genome editing tools

佐久間哲史,山本 卓
Tetsushi Sakuma/Takashi Yamamoto:Graduate School of Integrated Sciences for Life, Hiroshima University(広島大学大学院統合生命科学研究科)

本特集では,「CRISPR最新ツールボックス」と題し,進展著しいゲノム編集技術の最新開発動向を多面的に紹介する.前半の相田・中出の稿,片山・西田の稿,刑部の稿で取り上げる,ゲノム編集を発展させた精密な遺伝子改変技術であるプライム編集(prime editing)と塩基編集(base editing),およびCas9やCas12a(Cpf1)などのピンポイントな切断ツールとは一線を画すシュレッダー型CRISPRシステムは,多様化するゲノム編集プラットフォームのなかでもとりわけ利用価値の高いものである.また,後半の吉見・真下の稿,大石・落合の稿,國井らの稿で紹介される核酸検出技術,イメージング技術,および因子集積システムを介した転写調節技術は,ゲノム編集の派生技術として特に有力である.これらの新たなツールボックスの積極的な活用に,本特集を役立てていただきたい.

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 はじめに

「ゲノム編集の最新動向」――このようなタイトルでの講演や総説の執筆を幾度となく行ってきた筆者らにとって,急速に開発・改良・発展・応用が進む当分野の異常なほどの研究速度は,常に頭を悩ませてきた.取り上げるべき内容は年々増えていき,スライド枚数や原稿の枚数も増加の一途を辿る.基礎から最新動向までを可能な限り盛り込もうとすれば,それぞれの技術の説明もそこそこに,矢継ぎ早に話題が移っていき,往々にして聴衆・読者を置いてけぼりにしてしまう.特定のテーマに焦点を絞ることのできない,本稿のような「概論」や「総論」が特に厄介である.どのような構成にすべきか,大いに知恵を絞ったが,本稿のみで技術全体の最新情報をくまなくカバーすることは土台無理であると諦め,後述するような「諸々のレビューをレビューする」という構成に行き着いた.

さて,本特集は,サマリーにも記述したように,ゲノム編集の最新ツールボックスを横断的に紹介するものであり,3つのゲノム編集プラットフォームと3つの派生技術に焦点を当てることとした.しかしそれでもなお,ゲノム編集の最新動向をもれなくカバーできるとはとても言い難い.そこで本稿ではまず,総論として,ゲノム編集を取り巻くさまざまな技術を「基盤的ゲノム編集ツールおよび拡張的・発展的・派生的手法の技術マップ(概念図1)」に落とし込みつつ,それぞれの各論で紹介される技術の立ち位置と関係性を明確にすることを試みる.さらに,これらの技術と関連する周辺ツールや応用展開に関する技術動向(概念図2)についてもあわせて紹介する.これらの一つひとつを本稿でつぶさに解説することは不可能であるため,各トピックにおける最新事情がまとめられたなるべく新しい(おおむね2020年後半以降の)レビュー論文をあげながら記述していく.さまざまなトピックに特化したレビュー論文が溢れかえるゲノム編集研究ならではの総説スタイルとなるが,本稿では筆者らの目から見て一定以上のクオリティを有するレビュー論文だけを取り上げるので,信頼のおける最新レビュー集として本稿をぜひ活用していただきたい.

基盤的ゲノム編集ツールおよび拡張的・発展的・派生的手法の技術開発動向

本項目では,DNAの認識と切断を担う,いわゆる❶“基盤的”な「ゲノム編集ツール」を起点とし,そこから分岐する三要素を❷“拡張的”ツール・手法,❸“発展的”ツール・手法,❹“派生的”ツール・手法に分類して紹介する.基盤ツールに改変や改良を加えたプラットフォーム技術を“拡張的”なツール・手法と定義し,あくまでもゲノムDNA配列の改変を目的としつつ,従来のゲノム編集のコンセプトとは異なるメカニズムにもとづく技術を“発展的”なツール・手法,DNA配列の改変以外の目的に転用する技術を“派生的”なツール・手法としてそれぞれカテゴライズする.これらの三要素は,基盤ツールをベースとする開発物であることが共通しており,また改変型・改良型の拡張的プラットフォームは,発展的手法や派生的手法と相互に関連しうる,という関係性が技術マップの全体像となる(概念図1).なお本稿は,最新動向の紹介を目的としたものであるため,いずれのカテゴリーにおいても,「基礎の基礎」にあたる情報は割愛する.初学者にはハードルの高い内容となるので,参考図書にあげた書籍等を利用し,ゲノム編集の基本情報を頭に入れたうえでお読みいただきたい.

❶ “基盤的”なゲノム編集ツール

ゲノム編集は,特定のDNA配列を認識して切断するツールがなければはじまらない.このための基盤的ツールとして従来用いられてきたのが,ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN),TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN),そしてクリスパー・キャス9(CRISPR-Cas9)である.これらの従来型ツールについての基本的な情報は省略するが,自前でTALENを組み上げる場合や,複数のガイドRNAを単一のプラスミドベクターに統合したMultiplex CRISPRベクターを作製する場合などには,Golden Gate法などの少し高度な実験操作が必要となる.また,遺伝子ノックインのために複雑なドナーベクターを構築する際には,いわゆるギブソンアセンブリー法が有用である.このような実験法やTALEN・CRISPR-Cas9のツールキットの最新情報については,Ceroniらのレビュー1)に詳しい(ただしTALENキットとしてPlatinum Gate TALEN Kitが記述されていないのは残念である).

一般的に使用されるCRISPR-Cas9は,化膿レンサ球菌に由来するSpCas9であるが,別種に由来するCas9や,protospacer adjacent motif(PAM)の特異性を改変した変異体,特異性を高めた変異体等も開発されており,これらについてはGillらによるレビュー2)にまとまっている.Cas9とは異なるClass 2 CRISPRシステムであるCas12aについても同レビュー内でカバーされている.

ハサミのイメージで捉えることのできるピンポイントな切断システムであるClass 2 CRISPRシステムとは異なり,長鎖欠失を誘導することからシュレッダーとも形容されるClass 1 CRISPRについては,本特集の刑部の稿にて詳しく解説されている他,Doudnaらによるレビュー3)では,メカニズムから応用までの最新状況が網羅されており有用である.

❷ “拡張的”なツール・手法

基盤ツールであるCRISPR-Cas9の機能性を拡張するための汎用的なプラットフォームとしては,MS2などのRNAアプタマーを介在するシステムや,いわゆるSunTagのようなポリペプチド性のタグを介在するシステム等を利用したタンパク質および核酸の集積システムがまずあげられる.これらの技術については本特集の國井らの稿にて詳しく解説されており,同著者らによる英語版のレビュー4)も発表されている.

ゲノム編集の効率や特異性などを向上させる目的で,ガイドRNAやドナーDNAを化学修飾するのも最近のトレンドの一つである.一言で化学修飾といっても,さまざまなタイプの修飾があり,修飾の種類や修飾を施す場所によって効果が異なる.ドナーDNAの修飾においても,一本鎖DNAの修飾,二本鎖DNAの修飾,ガイドRNAと一本鎖DNAドナーのドッキングなど,方法論はさまざまである.これらの情報は,Yinらによるレビュー5)にたいへんよくまとまっている.

その他の拡張技術としては,誘導システム,抑制システム,分解システムがあげられるだろう.それぞれChoudharyら6),Doudnaら7),Messinaら8)によるレビューに詳しい.誘導システムは大別して低分子化合物による誘導と光誘導があり,化合物による誘導は,転写レベルでの誘導と転写後ないし翻訳後の誘導に細分化される.抑制システムは一般にAnti-CRISPRとよばれ,CRISPR-Casへの対抗策としてもともと自然界に備わるシステムをさまざまな形で流用するものである.分解システムは,ゲノム編集ツールを短時間作用させたい場合に特に有用である.これらの情報が,前述のレビュー群にてそれぞれ網羅的に紹介されている.

❸ “発展的”なツール・手法

発展的なツール・手法として定義したいのが,DNAを単純に切断する以外の(あるいはそれに付加的要素を加えた)方法でゲノム編集を実行するための技術である.この文脈では,デアミナーゼを用いる塩基編集,逆転写酵素を用いるプライム編集,トランスポゾン型のCasを用いるCasトランスポゾン,そして以前より用いられているドナーDNA依存的なドナーノックインが主要な技術としてあげられるだろう.

塩基編集については,本特集の片山・西田の稿にて解説されており,またLiuらによるプロトコール論文では,塩基編集に利用可能なデアミナーゼやCasシステム,主要な構造体,機能性や構成にもとづく分類などが一覧になっており,最新状況の把握と整理にたいへん役立つ9)

プライム編集とCasトランスポゾン,そして前述の塩基編集をまとめて解説したLiuらのレビュー10)は,これらの発展的ツールをまとめて理解できる優れた文献である.これらの技術のなかでも,Liuらによって開発されたプライム編集は,ある程度までの長さの欠失・挿入・置換を自由に誘導できることから特に注目を集めており,本特集の相田・中出の稿からも,本技術への期待度の高さが大いに伝わるであろう.

塩基編集やプライム編集など,新しい技術が次々と生み出される状況にあっても,従来のドナーDNAを用いたノックイン法もまた,依然として必要不可欠である.相同組換えや一本鎖アニーリング,マイクロホモロジー媒介末端結合,非相同末端結合など多種多様なDNA二本鎖切断の修復機構を巧みに利用することで,一塩基置換から長鎖のノックインまで,ありとあらゆるタイプの精密な遺伝子改変を実現できる技術は,やはりドナーを用いたノックインを措いて他にない.難点は,あまりに多くの手法が報告されているがゆえに,最適な手法の見極めが困難になっていることであろう.情報量の多さにとまどうかもしないが,Suhらによるレビュー11)には,これまでに報告されたさまざまな遺伝子ノックイン法が,図解つきでよくまとまっている.

❹ “派生的”なツール・手法

派生的な技術としてカテゴライズするのは,ゲノム編集とは異なる目的,つまりDNA配列の書き換えを伴わない用途での技術である.代表的なものとして,エピゲノム編集,ライブイメージング,核酸検出技術を本稿では取り上げる.

エピゲノム編集については,合成生物学的な切り口で当該分野における技術開発の一線を走るQiらによる最新のレビュー12)がよい教材となる.エピゲノム編集といえば,ヒストンやDNAの修飾を編集する技術として,主に特定の遺伝子の転写制御をアウトプットとする技術というイメージをもつが,他にも転写因子の結合サイトなどのDNAエレメントやノンコーディングRNAの解析に使用したり,染色体の立体構造や核内配置を規定する目的で使用したりすることも可能であり,前述のレビューにはこれらの応用についても記述されている.

ライブイメージングと核酸検出技術については,それぞれ本特集の大石・落合の稿吉見・真下の稿にて詳細に解説されているため,本稿では割愛するが,昨今のコロナ禍のご時世では,核酸検出技術はCOVID-19の診断技術として論じられることも多く,この文脈では,Guanらによるレビュー13)も参考となるであろう.

ゲノム編集と関連する周辺技術・ツールと応用展開

本稿は,ゲノム編集そのものに関する技術動向を解説することを主眼として論じてきたが,実際にゲノム編集を実行するうえでは,概念図2に示すようなさまざまな関連技術や周辺技術を必要とする.これらの関連技術・周辺技術については,本特集ではカバーしきれなかったが,本稿の結びとして,参考となるレビュー文献を列挙しておきたい.

ガイドRNA設計ツールとスクリーニング結果の解析ツールについてはDoenchらのレビュー14),ゲノム編集の活性や導入される変異の予測および解析に関するツールについてはOlejniczakらのレビュー15)とFrödinらのレビュー16),オフターゲット検索・解析法についてはBaoらのレビュー17),ゲノム編集全般におけるコンピューター解析の総論についてはPinelloらのレビュー18)を参照されたい.

ゲノム編集の医療応用に関する総論についてはZhangのレビュー19)やGajらのレビュー20),ゲノム編集治療とも密接に関連するデリバリー技術については,非ウイルス性のデリバリー法に関してまとめられたMurthyらのレビュー21)がオススメである.

生物種ごとの応用に関するレビューは,あげていけば枚挙に暇がないが,代表例としてあげるならば,マウスについてはAdamsらのレビュー22),サルについてはFengらのレビュー23),植物についてはPuchtaらのレビュー24),微生物については近藤らのレビュー25)を推奨したい.

 おわりに

本稿をまとめるにあたり,ゲノム編集関連のレビュー論文を総ざらいするにつけ,改めてこの技術の進展の速さと奥の深さを筆者ら自身が実感することとなった.今後本技術がさらにどのように広がっていくのか,矛盾するようであるが想像もできない未来が待ち受けていることは想像に難くない.だからこそゲノム編集はおもしろく,筆者らを含む技術開発者による可能性探求の旅はまだまだ終わりそうにない.

文献

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  • Liu R, et al:Trends Biotechnol, 39:262-273, 2021
  • Liu TY & Doudna JA:J Biol Chem, 295:14473-14487, 2020
  • Kunii A, et al:In Vitro Cell Dev Biol Anim, 56:359-366, 2020
  • Chen Q, et al:Adv Drug Deliv Rev, 168:246-258, 2021
  • Modell AE, et al:Curr Opin Chem Biol, 60:113-121, 2021
  • Shivram H, et al:Nat Chem Biol, 17:10-19, 2021
  • Prozzillo Y, et al:Biology (Basel), 9:421, 2020
  • Huang TP, et al:Nat Protoc, 16:1089-1128, 2021
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  • Nouri R, et al:Biosens Bioelectron, 178:113012, 2021
  • Hanna RE & Doench JG:Nat Biotechnol, 38:813-823, 2020
  • Sledzinski P, et al:Cells, 9:1288, 2020
  • Bennett EP, et al:Nucleic Acids Res, 48:11958-11981, 2020
  • Bao XR, et al:Nat Protoc, 16:10-26, 2021
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  • Aida T & Feng G:Curr Opin Genet Dev, 65:160-168, 2020
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  • Nishida K & Kondo A:Metab Eng, 63:141-147, 2021

参考図書

  • 「実験医学別冊 完全版 ゲノム編集実験スタンダード」(山本 卓,佐久間哲史/編),羊土社,2019
  • 「最新のゲノム編集技術と用途展開」(山本 卓/編),シーエムシー出版,2021

著者プロフィール

佐久間哲史:2012年広島大学大学院理学研究科博士課程後期修了(山本卓教授).博士(理学)を取得.日本学術振興会特別研究員PD,広島大学特任助教,特任講師,講師を経て,’20年より広島大学大学院統合生命科学研究科准教授.’18年より広島大学Distinguished Researcher.博士課程後期より一貫してゲノム編集の基礎技術開発に携わるとともに,国内外での共同研究を推進し,技術の普及と発展に努めている.

山本 卓:1989年,広島大学理学部動物学専攻卒業.’92年,同大学大学院理学研究科博士課程後期中退.博士(理学).熊本大学理学部助手,広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻講師,同大学助教授を経て’04年より同大学教授.’16年に日本ゲノム編集学会を設立し,現在同学会会長.’19年,広島大学ゲノム編集イノベーションセンター長(併任).’19年,広島大学大学院統合生命科学研究科教授(組織再編).研究テーマは,ゲノム編集技術の開発と初期発生における細胞分化メカニズムの解明.ゲノム編集で人類のさまざまな問題解決をめざす.

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