クローズアップ実験法

2022年2月号 Vol.40 No.3 詳細ページ
BiPoD:正確かつ高効率な両アレルノックイン新手法
新井大祐,中尾洋一
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BiPoD:正確かつ高効率な
両アレルノックイン新手法
新井大祐,中尾洋一

何ができるようになった?
マウス ES 細胞に対して,ノックインに伴う非特異的な挿入の発生を抑えつつ,これまで困難だっ
た相同組換えによる両アレルへの同時ノックインをきわめて高効率に引き起こすことが可能になった.
なお,本手法の有効性を確認できたのは今のところマウス ES 細胞のみであり,他の細胞種について
有効かどうかは検証中である.

必要な機器・試薬・テクニックは?
市販の試薬とベクター,通常の細胞培養やプラスミド作製の設備があればよい.特殊な試薬や機器,
技術は必要ない.

はじめに

さまざまな改善案が提案されているが,gold standard

ゲノム DN A の狙った場所に外来の塩基配列 (ド

と言うべき方法はいまだに確立されていない.

ナー)を挿入したり置き換えるノックイン技術は現代

われわれは最近,マウス ES 細胞(mESC)に対して

の生命科学に欠かせないものである .近年では DNA

正確かつきわめて高効率に両アレルへの同時ノックイ

修復機構の一つである相同組換えと,標的特異的にゲ

ンを達成する新手法「BiPoD」を開発した.本稿では

ノムを切断する CRISPR/Cas9 を組合わせた手法が広

手法の詳細や注意点,実例を紹介する.

く用いられている .標的のゲノム配列が CR I S P R /
1)

Cas9 により切断され相同組換えにより修復される際に,
ゲノムと相同な配列(アーム)をもつドナーが修復の

原理

鋳型に用いられることで,ドナーをゲノムに正確に挿

相同組換えノックインの効率の低さの原因の一つは

入することができる.しかし 2 組ある染色体の両方(両

相同組換え以外の DNA 修復経路の存在にある.NHEJ

アレル)にドナーが同時にノックインされる効率は非

(non-homologous end joining, 非相同末端結合)と

常に低い.また細胞に導入したドナーは標的箇所だけ

MMEJ(microhomology-mediated end-joining, マイ

でなく非特異的な場所へも頻繁に挿入され,偽陽性や

クロホモロジー媒介末端結合)は D N A 二本鎖切断の

挿入変異によるゲノムの破壊を引き起こしてしまう .

主要な修復機構だが,接合部に挿入や欠失の変異を生

BiPoD: Efficient and specific biallelic knock-in in mouse embryonic stem cells

Daisuke Arai/Yoichi Nakao:Department of Chemistry and Biochemistry, School of Advanced Science and Engineering,
Waseda University(早稲田大学先進理工学部化学・生命化学科)

実験医学 Vol. 40 No. 3(2 月号)2022

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