クローズアップ実験法

2025年1月号 Vol.43 No.1 詳細ページ
PECAbを用いた多重性の高い連続免疫染色
富松航佑,大川恭行
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PECAbを用いた
多重性の高い連続免疫染色
富松航佑,大川恭行

何ができるようになった?
従来の連続免疫染色法では免疫染色に用いる抗体の標識法と染色後の消光による影響に課題があり,
標的となるタンパク質の高精細なデータを連続して取得する系の構築が非常に困難であった.われわ
れの開発した PECAb は抗体にジスルフィドリンカーを介して蛍光色素を標識することで,消光によ
る組織の損傷を抑えた特異的な染色像の連続取得を可能にした.

必要な機器・試薬・テクニックは?
PECAb を用いた連続免疫染色の導入にあたり,免疫染色の知識と,長時間占有しても差し支えな
い蛍光顕微鏡の設備があることが望ましい.高精細なデータ取得には,ガラスボトムディッシュ(プ
レート)にサンプルを調製し,開口数の高いレンズを搭載した共焦点顕微鏡を用いる撮像がよい.

はじめに

いる 1)∼ 3).これらの手法はオリゴ D NA 標識抗体のカ

免疫染色は抗原を特異的に認識する抗体を用いて対

クテルを試料と反応させた後,各抗体に付加された塩

象のタンパク質を可視化することで ,細胞内における

基配列と相補的な蛍光 DNA プローブを順次反応させ,

タンパク質発現とその修飾および局在の情報を取得す

画像取得後に蛍光 D N A プローブを剥離することで連

ることを可能にする .本手法はタンパク質の情報を組

続染色を行う .しかしながら ,抗体に標識したオリゴ

織における細胞の配置のような空間情報とともに取得

DNA がしばしば正電荷の強い核タンパク質と非特異的

できる特徴があるため ,超多重化することで網羅的に

に相互作用するため,オリゴ DNA 標識は主に細胞表面

情報取得する空間オミクスとしての運用が期待され,近

抗原に対する抗体や特異性の高い抗体の使用に限られ,

年研究開発が進められてきている .代表的な手法の例

核タンパク質を染色する標識抗体の調製には抗体とオ

として,抗体に 1 本鎖 DNA オリゴを結合させ,それを

リゴ DNA の最適な組合わせの探索が必要であった 1).

蛍光標識した相補的な 1 本鎖 DNA プローブで検出する

一方でオリゴ DNA 標識に依存しない連続免疫染色につ

hybridization(FISH)に基づく手

いて ,いくつかの手法が開発されている .例えば 4i

法が確立されており,PhenoCycler(旧 CODEX)や

fluorescent

(iterative indirect immunofluorescence imaging)は

immuno-SABER,CosMX SMI などで広く採用されて

抗原特異的な 1 次抗体を 2 次抗体で検出する間接免疫

Sequential immunostaining with PECAb
Kosuke Tomimatsu / Yasuyuki Ohkawa:Division of Transcriptmics, Medical Institute of Bioregulation, Kyushu University
(九州大学生体防御医学研究所トランスクリプトミクス分野)

実験医学 Vol. 43 No. 1(1 月号)2025

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