クローズアップ実験法

2025年4月号 Vol.43 No.6 詳細ページ
DeepSpaceDB:空間トランスクリプトミクスデータの探索的解析
Vandenbon Alexis,竹本経緯子
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DeepSpaceDB:
空間トランスクリプトミクス
データの探索的解析
Vandenbon Alexis,竹本経緯子

何ができるようになった?
バイオインフォマティクス未経験者でも容易に,空間トランスクリプトームの公開データ(約 1,700)
を閲覧し,インタラクティブな探索・遺伝子発現解析・パスウェイ解析等ができる.

必要な機器・試薬・テクニックは?
インターネット接続できる端末とブラウザーがあれば誰でも無料で利用できる.特別なスキルを必
要としない.

はじめに

い洞察を提供するが,新たに始めるには実験技術・設

空間トランスクリプトミクスは,組織内の複雑な遺伝

備,コスト等考慮すべき問題があるうえ,データ解析

子発現に空間位置情報を付与する先端的な技術である.

には高度なバイオインフォマティクスの知識が必要と

細胞の位置情報を保持することは ,組織の複雑な構造

なる.一方で,公共データに空間トランスクリプトミ

を理解し ,細胞のふるまいが微小環境にどのように影

クスサンプルが蓄積されつつある(図 1A)
.そのため

響されるかを理解するうえできわめて重要であり,空

既存の空間トランスクリプトミクスデータを簡単かつ

間トランスクリプトミクスの応用分野は多岐にわたる.

インタラクティブに探索できるデータベースが強く求

空間トランスクリプトミクスには複数のプラット

められている.DeepSpaceDB はそのような要望に応

フォームが存在し,10x Genomics 社が開発したVisium

えたデータベースである 1).

プラットフォームは最も広く使われている.Visium で
は直径 55 μm のスポットに覆われた特殊なチップの上
に組織切片を置いて逆転写反応を行う.各スポットに
はユニークなオリゴヌクレオチドバーコードが配置さ

原理
われわれは,NCBI の Gene Expression Omnibus

れており,組織の mRNA はこれらのオリゴヌクレオチ

(GEO)等から Visium サンプルを包括的に収集した.

ドにハイブリダイズし,空間情報が保存される.塩基

収集されたデータには画像 (典型的には H & E 染色)

配列決定後,解析ツールによって空間的な遺伝子発現

とトランスクリプトームデータが含まれる.サンプル

マップに再構築される.

のアノテーションは手作業で行われ,組織や由来,状

空間トランスクリプトミクスはこれまでに前例のな

態 ,その他の情報(性別 ,年齢 ,発生ステージなど)

DeepSpaceDB: interactive exploration of public spatial transcriptomics data
Alexis Vandenbon/Keiko Takemoto:Institute for Life and Medical Sciences, Kyoto University(京都大学医生物学研究所)
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実験医学 Vol. 43 No. 6(4 月号)2025
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