「博士号を取る時に考えること取った後できること」イメージ

【新刊情報】
将来と真剣に向き合う時,必ず力になる一冊!

『博士号を取る時に考えること取った後できること』より)

「一生,研究を続けていくべきか」――研究の世界に入ったら一度は考える将来のこと.そんな大学院生,ポスドクの方々の将来を応援する本ができました!
本書『博士号を取る時に考えること取った後できること』は,『実験医学』の好評連載「博士号取得とキャリア設計を考えるマネジメント力開発ガイド」を大幅増量して一冊の本にしたものです.博士号の現状から博士に必要なスキル,博士号を活かした多様な生き方まで,本書を通じて将来のヒントとなる情報が必ずや得られることと思います.

なお下記では,本書の抜粋本文として,米国でのポスドク経験後,助手等を経て現在特許庁で活躍されております濱田光浩博士のインタビューを一部ご紹介いたします.(編集部)

三浦:前職は大学の助手でいらしたわけですが,どのようないきさつで転職されたのですか.

濱田先生

濱田:助手といっても,任期が決まっていたので,ポスドクのようなものでした.年齢的にも次のステップアップを考えなければならない時期にさしかかり,家族の状況,自分自身のこと,望むような研究ポストを獲得できる可能性など,いろいろと考えた結果です.知的財産分野や弁理士という仕事については,博士号を取得した頃から漠然と興味があって,一般的な情報は得ていました.自分のやっていた研究は,実用化とは程遠い基礎研究だったのですが,そんな分野でも特許出願をしている事例を見聞きし,特許の世界を身近に感じるようになったのです.特許庁がこのような形で職員募集を開始することを新聞報道で知り,実際の募集がいつ始まるのか気にしていたので,よいタイミングで応募することができました.

 どうして研究をやめたのか,あきらめたのかと問われたら,ネガティブな答えになってしまいますが,運,才能,努力…いろんな要素があって,研究者であり続けるには,これから先ますます無理が生じるだろうと感じたことが1つです.教授の下,与えられたテーマで研究を行うなら充分やっていけたでしょうが,研究室を構えて何人もの学生の面倒を見て…と考えたら,やっていけるのかどうか.そんなふうに不安を感じる一方で,自然科学の専門知識があれば,法律の知識がなくても一から研修してくれて,将来的には弁理士資格を取得でき,その間給料をもらいながら実務経験を積めるチャンスがあると知りました.どちらにしようか考えて,こちらになったということです.

 研究職以外の職も探してみようと思った当時,転職支援会社に行ってすぐ登録したのですが,技術営業であるとか,その気になれば結構,職があるものなんだと感じて,少し余裕をもって考えられるようになりました.今,ポスドクの人たちが職がなくて困っているという話をよく聞きますが,アカデミックポスト以外の就職を考えて,具体的に行動を起こしていないのではないかなと思うんですね.

アンテナを広く張っておこう

三浦:博士号を取得したことは,役に立っていますか.

濱田:弁理士や特許審査官になるのに,博士号は必要ありません.しかし,この仕事も高度な専門性や論理的な思考の組み立てが求められるということを考えれば,研究経験は重要です.審査する対象は,体裁こそ特許出願のための書類ですが,中身は,自分がこれまで数多く接してきた研究論文と同様で,特許権を付与する価値があるか否かの理由を組み立てる材料も主に論文です.数多くの論文を読み込んで論理立てすることは,普通に研究論文を作成する過程と同じですから.ただ,自分の書いた文章で他人を納得させなければならないという点では,まだまだ精進する必要がありますね.まだ審査官補だった頃,指導審査官に見てもらったら,自分の書いた箇所がわからなくなるぐらい書き直されて返ってきたこともありました.

 役に立っているかどうか…というか,博士号に縛られるのは,よくないと思いますよ.学位も資格の一種だと考えた方がいい.確かに取得するために費やした時間や労力を考えれば,非常に重いものです.しかし,それに捕らわれすぎると自分の可能性を狭めることになります.博士号そのものは,役に立っていないかもしれませんが,取得する過程で得られた能力は役に立っていますから.それを活かすためには,いつもアンテナを広く張って,自分にとって有益な情報を逃さない努力は必要でしょう.

(聞き手:三浦有紀子 本書著者)

【プロフィール】
濱田光浩:特許庁特許審査第三部 生命工学 特許審査官(経済産業技官).1992年筑波大学第二学群生物学類卒業,1998年東京工業大学大学院博士課程生命理工学研究科バイオサイエンス専攻修了〔博士(理学)〕.1998~2001年米国NIHでポスドク.2001年埼玉医科大学助手,2003年東京大学新領域創成科学研究科先端生命科学専攻特任助手等を経て,2005年特許審査官補.2007年より特許審査官.
骨免疫制御のメカニズム

※続きは本書をご覧下さい.

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